第4話 行列のできる霊力屋さん

「あうー」


そういいながら、ハイハイをする赤子がいた。もちろん俺だ。

赤子として寝台ねたきり生活は終わり、床をハイハイして動けるようになってきた。リハビリ生活の始まりだ。

高速ハイハイもできる。そろそろ立てるかなといったところだ。


「はいこっちー。お母さんのところにおいで~」


ハイハイの向かう先には満面の笑みで手招きをしてる母親がいた。

奥にはメイド達がほほえましそうにこちらを見ている。


「かぁかさ。かぁか~」

「そうよ。お母さんよ~。はい、いっちに! いっちに!」

「い~に~」


少しは簡単な言葉も話せるようにもなった。

言葉の理解の問題というよりかは、舌と口の発達が不十分でまだうまく喋れない。

だがもう少しで活舌もよくなりはっきり話せるようになるだろう。





あれから数か月が過ぎた。おそらく生まれてから1年といったところだ。


俺は無事にこの数か月を乗り切った。


以前襲ってきたあの怪物は、あれから何度も俺をしつこく襲ってきた。

多い時は日に3度は襲ってきたこともあった。

あの怪物たちは不思議と決まって人がいないときに来る。


怪物の姿は毎回毎回違う容姿をしておりバリエーション豊かであるが、だからと言ってみて楽しいものになるなんてことはなく嫌悪感とあの嫌な匂いはいまだ健在だった。


だがあの日のように見てすぐに泣くなんてことはなくなった。

それは勿論、あの日のように精霊たちが守ってくれるからだ。


彼らは俺が襲われるたびに甲斐甲斐しく守ってくれる。

保護者というか護衛というか。

俺を大事なもののように守護していた。


普通の場合、精霊たちは守ってくれないんじゃないだろうか。

おそらくあのまま怪物に襲われるまま襲われて、体力を奪われ、何度も襲われるうちに死んでいくのだろう。


子供はそれを本能的に知っている。

だから見た瞬間に泣き叫び、恐怖を抱くのだ。


そして、たまたま襲われなかったり、たまたま大人や精霊が助けてくれる場合、赤子は運よく生き残る。


それが、母親の言っていた「精霊の加護」であり、あのメイドの「無事」という言葉の意味なのだろう。


そういう意味では俺の場合は「精霊の加護」があるといえるだろう。


怪物が来るたびに「あうー(助けて)」と言えば、精霊たちがどこからともなくやってきては怪物を倒していってくれる。まさに加護と呼ぶにふさわしい。


その加護で怪物たちを倒しにやってくる精霊たちは毎回違う。

ある時はワイバーンが怪物をつかんで宙に持ち上げては下にたたきつけて活躍したときとか、マタンゴたちが胞子を怪物にかけてキノコまみれにして倒したりとか。


けどやってくることが一番多いのはエルフとダークエルフのコンビだ。そして来るときはいつもライダーキックから始まり、かかと落としで終わることが多い。たまにパンチが飛び出たり、プロレスのコンビ技をかけたりもしている。


何度も何度も精霊たちがきては助けてくれるので、今では怪物を倒していく過程をちょっとしたヒーローショーを見ている気分になって楽しんでもいる。


怪人がやってきて、ヒーローの名前を呼ぶとすぐに駆け付けて、怪人を倒していく。まさにそんな感じだ。怪物自体は嫌だが。


そんな風だから、精霊たちに名前を付けることにした。ひょっとしたら、助けての後に名前を呼べば、その精霊が助けに来てくれるんじゃないかと思って。


結果は、ある程度は来てくれることが多くなったくらいだ。毎回じゃない。

精霊というのはある程度お気に入りを助けてくれるものの、基本的には気分屋なのかも。


名づけをしてもその後ずっと覚えきれるか不安だったので、まずはよくやってくる子たちからつけていった。間違えたらかわいそうだからね。


一番やってくるエルフとダークエルフのコンビはニーラ・ヤーラと呼んでる。コンビだから合わせて呼びやすい名前ということでこれにした。エルフがニーラでダークエルフがヤーラだ。ちなみにエルフは金のミディアムヘアで、ダークエルフは中くらいの白のポニーテールだ。


次に来るのが侍だ。俺は彼をムサシと呼んでいる。ムサシは派手な動きはしていないのだが、よく見ると毎回ふらりとやってきてはちょいちょいっと切っては去っていく。功績を主張しないところが渋い。


3番目がゴブリンとオーガだ。ゴブローとオガローだ。着実にダメージを与えていく二人組であり、いっつも喧嘩してる二人組でもある。喧嘩に夢中になっているときは助けに来ない。


他にもいるけど、それはまた今度にしよう。


そして彼ら精霊達にはずっと霊力で餌付けもしている。助けに来たのも来てないのにも霊力を与えている。いつか助けに来てくれるかなと期待しながら。ひょっとしたらこの世界ではこれが生死を分けるかもしれない。


そんな餌付けをする日々の中、彼らが様々な光で輝いているのを見ていて思ったことが、霊力もいろんな色に変えれるんじゃないのかということだ。

最初はエルフとダークエルフコンビのニーラ・ヤーラの色にしようということで緑を目指してた。


最初はうまくいかなかった。霊力自体は透明であり、体から出るときは若干白い靄のようなものだ。

気合を入れても落ち着いて出しても、霊力を出す場所を変えても、なかなか色を変えることはできなかった。他の色を試していてもダメだった。


だが、それでもあきらめずに何度か試すうちに色を変えれるようになったのだ。


決め手は感情だった。

緑を風ととらえ、風にまつわるもの、それらへの感情を思い出しながら霊力を出すと霊力に色が付いたのだ。俺にとって風とは自由だった。


そしてそれで出したものは緑色の光を持つ精霊達には大うけだった。緑とは呼べなさそうな薄い緑色の霊力だったが、それでもそれを食べた時には今までとは全く違うような表情を見せて、より良い表情を見せる。

ニーラ・ヤーラが驚きのあまり飛び上がって感情を表現したのは見ものだった。


ただ逆に、他の色をまとっている精霊たちはその色付きの霊力を嫌うようになっていた。何かがお気に召さないらしい。だから別の色も出せるように様々な感情を試していった。


そうして、色とりどりの光を放つ霊力を出せるようになったのだ。今では指ごとに違う色の霊力を出すなんてこともできる。



母親たちが去り、今日もこれから餌付けの時間だ。


俺が霊力を出すよという雰囲気を出すと、精霊たちが集まってきて俺の前に精霊たちの行列ができていた。。最近はニーラ・ヤーラが一番にやってきてはねだるのだが、そこをムサシが整列させて、他の精霊たちも一緒に並ばさせているのが面白い。


ひょっこり顔を出したり、前の精霊の体につかまってぴょんぴょん跳ねたりしているさまが見える。たまに順番ぬかししようとしてムサシに怒られている精霊もいる。


さて、行列のできる霊力屋さん開店だ。俺は順番に霊力を与えていく。

最近はちょっと大きめに出して、それを綿菓子のように少しずつ食べる精霊が増えてきた。


なんともほほえましい光景だ。



そんな時に、横から声がかかった。


「あら、あなた美味しそうな匂いしてるわね」

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