第21話 みんな、みーんな、だーいちゅき!①

 八年後。


「ぐおぉー! 呪われたー! 苦しいー! 誰かー! 助けてくれー!」


「わたしは黒聖女サン・ノワール! 呪いはわたしにしか解けないわ! 今っ助けてあげる! 共に生きようヴィーヴル・アミーチェー!」


「おぉー! 体が楽になっていくー、ありがとう黒聖女サン・ノワール——」


「こーら! 二人共! 黒聖女サン・ノワールごっこはやめなさいと何度も言っているでしょー! お父さんがどれだけ苦しそうだったか、教えたでしょ!?」


「「はーい」」


「わはは! 良いではないかメヒア! それだけ、黒聖女サン・ノワールであるお前を誇りに思っているのだ!」


「それはわかっていますし、嬉しいんですが……」


「やったー! お父さんがいいってー! お兄ちゃん続きしよー!」


「おう!」


「すぐ調子に乗るんだから……」


「わはは!」


 あれから、「したい!」とガザムさんが断言していたように、夜の営みが始まった。ガザムさんはと大きく、私は毎日くたくただけど幸せで、そのおかげで、二人の子供に恵まれた。


 ガザムさん似の、やんちゃで元気な長男と、私似で泣き虫だけど優しい長女。もちろん、二人とも黒い髪に黒い瞳だ。

 そして、


「母ちゃん母ちゃん!」


「ん?」


は弟かな!? 妹かな!?」


「どっちだろうねー」


「わたし、お姉ちゃんになるんだよねー!?」


「そうよー」


「わーい!」


 第三子を妊娠中だ。


「わはは! うむ! 楽しみだな! まだまだ欲しいところだがな!」


「父ちゃんは何人ほしいんだ!?」


「十人は欲しいぞ!」


「あと七人……、頑張ります……」



 出産もそうだけど。あれから、色んな事があった。そして、私たちは色んな事をした。


 まず、オークさんの悪い印象を払拭ふっしょくさせるために、私は部下さんたちに読み書きと言葉を教え、ガザムさんは“ちゅき”を、人を愛する事の素晴らしさを教えた。


 部下さんたちは、最初、


『“ちゅき”って何ですかい! 王!』


『ふさげるのもいい加減にしてくだせー!』


 と、大ブーイングだったけど。次第に、


『うおおぉぉー! 何でオレらはこんな事に気付けなかったんだぁー!』


『“ちゅき”は、戦うよりも楽しくあったけー!』


 と、みんな号泣し出した。

 ガザムさんを見ていても思うけど、多分、オークさんって根は純粋なんだ。


 そして、その、ガザムさんは、


『“ちゅき”は! 全てを包む!』


 と断言し。


『全てを包むー!』


『ちゅっきだ! ちゅっきだ! ちゅっきだ!』


『ちゅっきだ! ちゅっきだ! ちゅっきだ!』


 ガザムさん筆頭に、「ちゅきだ!」と歌いながら行進する、“ちゅきちゅき大行進”を始めた時は、思わず笑っちゃったな。



 部下さんたちの事が済むと、私たちは人間の王様に会いに行った。エルフさんとの領土を巡る争いをやめるようにお願いするために。


 最初は不審がっていたけど、私の夫がオークの王様であるガザムさんだと知ると、話を聞いてくれた。


 じっくり話を聞いて、何故、争っているのかわかった。

 私たち人間は、エルフさんの領土で育つ、水々しい果物や野菜が欲しい。

 エルフさんは、私たち人間の海域で暮らす新鮮な魚介類が欲しい。

 けれど、国境を勝手に越える事は禁じられている。ならば、手っ取り早く奪ってしまおう。と、争っていたのだ。


 互いの言い分はよくわかった。どうしたものかと悩んでいると、エレクトさんがやってきて、三種族の代表、王様が全て揃った。

 こんな場に私はいてはいけないと、王城を出ようとすると、


『ちゅまも同席して構わんだろう!?』


 と、ガザムさんに軽々と持ち上げられ、膝上に座らさせられ、後ろから抱きしめられた。 


『構わぬが、同席させる理由は?』


 という王様の問いに、


『俺が離れたくないからだ!』


 と、ガザムさんは大声で言った。

 私は真っ赤になり俯き、王様は呆然とし、エレクトさんは「またやってるな」みたいに笑っていた。


 そして、肝心の領土問題。


 互いにそれぞれの土地に入って来られるのは気に食わないと、譲らない。これじゃあずっと平行線だな、と、思っていると、


『我がちゅまに聞いてはどうだろうか! なぁ! メヒア!』


 と、ガザムさんが無茶振りしてきた。

 「ええー……」と思いつつ、考えていたことを述べてみた。


『恐れながら、申し上げます。私たちの海域、エルフさんの樹木豊かな土地。それらを、共同の領土、共土としてはどうでしょうか』


 びくびくして様子を伺うと、


『ふむ、なるほどな……』


 顎に手を添え、エレクトさんが頷いてくれた。

 あと、一人だ! と、思い、続けた。


『そして、採っていい日、漁をしていい日、取っていい量を決めるんです。そうすれば、取りすぎだとか、そういう問題は発生しないと思います』


 王様も頷いてー! と、念を送っていると、


『それなら公平であるな』


 と、長く白い顎髭を弄りつつ頷いてくれた。

 よかったー、と胸を撫で下ろしていると、


『わはは! どうだ! ちゅまを同席させてよかっただろう!?』


 ガザムさんはご満悦だった。


 私も、役に立ててよかった、と思った。


 こうして、私たち人間とエルフさんも和平を結んだ。





 あ、エレクトさんといえば。


 ガザムさんの部下さんと結婚して、ラブラブ新婚生活を送っている。

 そして、最近は毎日のように、


『また来たぞ! さぁ! どちらのパートナーが素晴らしいか対決をしようではないか!』


 遊びに来て、“ちゅき”対決を挑んできている。

 これで、傷つく人はいないから、争いには数えないであげて、いつも見守っているんだけど、


『パートナーの好きな所を述べよ! せーの!』


『『全部だ!』』


 一瞬で終わり、平行線な日々。そんな時、いつも助け舟を出してくれるのが、


『エレクトねーちゃんっ、エレクトねーちゃんっ』


『あそぼー、一緒に黒聖女サン・ノワールごっこしよー』


 子供たちだ。エレクトさんの両手を掴んで離さない。


『ええーい! 離せー! 今、パートナーの良さを——』


 最初はかたくなに断っていたエレクトさんは、


『遊ぼうぜー!』


『あそぼー!』


『——ぐぬぬ。メヒアよ!』


『はっ、はい!』


『可愛い子を産みよってー……、ぐぅ……、私の負けだー!』


 今では我が子たちの虜だ。一瞬で完敗してくれている。


『私は何をすればいい!?』


『悪いやつ! 呪ってくる悪いやつ!』


『承知した! ぐわっはっは! 我は闇の化身! エレクトール! 貴様を呪いに来たー! 食らえー!』


『ぐわあぁー! また呪われたー! たーすーけーてーくーれー!』


『わたしは黒聖女サン・ノワール! わたしに任せて!』


 そして、ノリノリで活き活きと娘の黒聖女サン・ノワールごっこに付き合ってくれる、親戚のお姉さんみたいになっている。

 おかげで、私とガザムさんは顔を見合わせて笑い、楽しい幸せな日々を送っている。






●●●●



 あとがき。


 やっぱり長くなったので、二つに分けました! すいません! 次こそ最終話です!

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