第20話 自ら、解いてあげてください。

 白い光の糸が、眩い光と共に散り、私の中に入っていく。


「う、あっ……」


 黒の、本来の呪いでも辛かった。だけど、同じ黒だから、受け止められた。

 今回は、白の、黒とは正反対の癒しの力が元の呪い。体の負担が半端でない。体が一気に重くなり、がん! っと頭を殴られたような吐き気と、痺れが襲ってきている。立っていられなくなり、よろめき、ガザムさんに受け止められた。


 何とか、この症状を少しでも軽減できないかな……。そうだ! 好きに、ちゅきになればいいんだ! 白は黒! 正反対だと思うから辛いんだ!


 うん。大丈夫だよ、白き呪い。

 辛かったね、苦しかったね。

 聖なる力なのに、呪詛に変えられて、嫌だったね。

 そんな気持ちも全て! 受け止めるから!


 全て! ちゅきになるから!


 あなたも私を受け入れて!


 ……よし、少し軽減された。でも、呪いだから、まだ苦しい……。


「メヒア! 俺に流すのだ!」


「ですが! そんな事をしたら!」


「俺を信じろ! 夫を信じろ!」


「——わかりました! 流動クール!」


 体に溜め込んだ呪いを、半分ガザムさんに流した。ガザムさんの左半身に、白い刺青のような模様が浮かび上がっていく。


「ぐっ……」


「大丈夫ですか!?」


「大丈夫だ! ただこんなに辛いものをお前が体に受けてきたかと思ったら、しんどくなっただけだ」


 ガザムさんは、腕に力を込めて、


「今まで、よく耐えてきたな」


 太陽のように熱く、お布団のように優しい笑顔を向けてくれた。


「——はいっ」


 また泣きそうになり、気を引き締めた。


 ドサッと何かが落ちる音がして前を向くと、お姉ちゃんが地面に倒れていた。


「お姉ちゃん!」


「俺が見てくる」


 ガザムさんは優しく私の両肩に手を置くと、お姉ちゃんの所に向かった。お姉ちゃんの口元に手を当て、


「大丈夫だ、息はしている」


 私を見て頷いた。


「よかった……」


 力が抜けそうになると、


「ハ、ハハ……。オマエラ夫婦、どうかしているゾ……。この暴走を止めるナンテ……」


 叔父さんが尻もちをつき、呆れたように笑っていた。


「…………」


 私はおぼつかない足取りで叔父さんの所に行くと、しゃがんで目線を合わせた。


「叔父さん、叔父さんも私と同じ。……ううん、。だから、気持ちはわかります」


「ハ……、黒聖女サン・ノワールのオマエと一緒にスルナ……」


「いいえ。だって、叔父さんも“劣等感”という呪いに縛られていた。叔父さんは、聖なる力が使事に。私は、聖なる力が事に」


 この世界では、女性に限らず、聖なる力が宿る事がある。そういう人は、みんな聖人サントと呼ばれている。叔父さんもその一人だ。


 だけど、叔父さんは癒しの力が弱く、そして、上手くコントロールできなかった。小さな擦り傷一つ、治せなかった。


 だから、家族から、親戚から、全てに、罵倒されて生きてきた。


 その、恨みを、反動を、呪詛を覚える事に費やしてしまった。


 そして、叔父さんもお姉ちゃんのように美しい白い髪だったのに、闇に染まった事で灰色になってしまった。その髪色も相まって、叔父さんの罵倒は酷くなるばかりだった。


 そんな、私と、呪い。


「私の“劣等感”という呪いは、ガザムさんが解いてくれました。叔父さんの呪いは、自ら、解いてあげてください」


 骨ばった、しわだらけの叔父さんの両手をそっと包んだ。


「オークさんたちと同じく、呪詛へ向けていた熱意を、別のものに当ててください」


「ンなコトできるわけ……」


「大丈夫です。叔父さんならできます。何たって、ガザムさんがちゅきになってくれた、叔父さんなんですから」


 叔父さんに笑顔を向けた。ガザムさんがくれる、あったかくなれる笑顔を真似して。


「ウ、ウ、うああぁぁぁー!」


 叔父さんは、慟哭どうこくした。


 その声は、エルフの里に響き渡った。それぐらい、切なく重い、悲鳴だった。





●●●●



 あとがき。


 次回、最終話です。


 長くなりそうなら、二つに分けるかもしれませんが、とにかく最終話です!

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