第19話 「最強の姉妹だね!」

 私にしか、できないこと! それが、呪いを解く事だ!


 お姉ちゃんが完全に白き呪いに包まれる前に! 解けば! お姉ちゃんも世界中の人も助かる!


「どうする! メヒア!」


 ガザムさんが横に並び、お姉ちゃんを見据えた。こうしている間にも、どんどん光の糸で包まれていく。


「私が呪いを解くには、その人に触れていないとできません。だから——」


 光る白い糸に両手を当てた。


「この糸を剥ぎ取り、お姉ちゃんを見つけます!」


「アヒャ、アヒャヒャ! 剥ぎ取ルゥ? 無理に決まってんだろうガァ! オマエには見えナイのカァ!? 光が集まる速さガァ!」


「無理かどうかは! やってみてから決めるんです!」


 白い糸を掴み、がむらしゃに剥いでは捨て剥いでは捨てを繰り返した。でも、やはり私の剥ぎ取る速度は、光の糸が集まる速さに劣っている。剥ぎ取っても剥ぎ取っても、糸は、剥ぎ取った倍、集まってくる。


「メヒアァ! そういうのをなんと言うか知っているカァ!? 無駄な足掻き、悪足掻きって言うンダヨォ! アヒャヒャヒャ!」


「——」


 涙が出てきそうになり、唇を結び、ぐっと堪えた。


 無駄じゃない、無駄じゃない。無駄じゃないんだ。


 こういう時に足掻かないでどうするんだ。


 大好きな、だいちゅきなお姉ちゃんと、この世界のために。足掻くことは、決して無駄じゃない!


「メヒア、もう止せ。お前の可愛い手がボロボロじゃないか」


 確かにあちこち皮がけ、ヒリヒリとジンジンとした痛みが襲ってきている。でも、こんなのは、お姉ちゃんや世界中の人たちの痛みに比べたら、大した事ではないんだ。


「ガザムさんも、無駄な足掻きだと、諦めろと言うんですか!」


「いいや、違う。力仕事なら、俺の出番だ、ということだ」


 ガザムさんは大きな手で私の両手を包むと、優しく撫でてくれた。痛みが少しだけ減った気がする。


「この何十年、己の肉体一つで戦ってきた俺の力! 我がちゅまとその姉のために! 今こそ発揮せん!」


 パン! と、音を鳴らしガザムさんは手を組んだ。


「はあああぁ!」


 すると、ガザムさんの腕と手の筋肉が、血管が浮き出るほど隆起した。

 そして、


「うおおおぉぉ!」


 ガザムさんは白い糸を剥ぎ取り出した。

 最初は剥ぎ取る速度と、光の糸が集まる速度は同じだったけど、


「すごい……」


 ガザムさんの剥ぎ取る速度が段々と優ってきた。


「メヒア! 何でもいい! 姉に声をかけてやれ!」


「はい! お姉ちゃん! 覚えてる!? 私! 色々と思い出したんだ! 昔はさ! よく二人で遊んでいたよね! そして、そしてね!」


 二人して下手くそな絵を描くのが好きで、それに色を塗るのが流行っていたよね。

 ある時、ふざけて絵具のよく使う赤、青、黄色を混ぜた時があったよね。そうしたらさ、“黒”ができたんだ。でも、その黒はどんよりして重暗い色だった。じゃあ、白を入れちゃえ! って、私が入れたら、丁度いい黒になったよね。


 「白も黒だったんだよ! ううん、白があるから黒が活きるんだ! だから私たち、最強の姉妹だね!」 って。

 その黒を使って、家の壁とかを塗ってさ、お母さんとお父さんに二人して怒られたよね。二人で舌を出して、「ごめんなさーい!」って、笑っていたよね。


「どうして、こんな大切な事を、忘れていたのかな……」


 段々と、別れていったんだよね。


 両親はお姉ちゃんばかり見るようになって、私は、劣等感に沈んだ。

 お姉ちゃんは、優越感に浸った。


 それが、こんな事を招いてしまったんだね……。


「メヒア! 見えたぞ!」


 顔を上げると、光る白い糸の奥で、お姉ちゃんの右腕が見えた。

 聖なる力を解放し、吸収、そして、呪いへの変化。その色んな代償のせいか、お姉ちゃんの右腕は痩せ細り、老人のようにしわしわになっていた。

 そんなお姉ちゃんの腕を見て、また、涙が込み上げてきた。でも、ダメだ。泣いていいのは、お姉ちゃんを助けてからだ!

 私はお姉ちゃんの右腕を離さないようにしっかり掴んだ。


「お姉ちゃん! 昔の、仲良かった姉妹に戻ろう! 黒も生、白も生、刻め生まれしものよ。我の糧とならん。共に生きようヴィーヴル・アミーチェー!」

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