第13話 嘘だぁー! 嘘だあぁあー……!

「ひえぇー……」


 私が怯える中、


「我が名はガザム・ウラガン! オークの王なり! そちらの王と話し合いに来た! この通り! 武器は持っていない!」


 ガザムさんは堂々とした立ち振る舞いで、声高こわだかに言い、私を抱えてない左手を広げた。


「その抱えているものは何だ!」


「ちゅまだ!」


「ちゅまとは何だ! 妻の間違いではないのか!」


「そうだ! ちゅまだ!」


「訳がわからない」


「話が通じないな」


「これは王に通すより致し方ない」


「…………」


 顔を見合わせ、話し合うエルフさんたち。

 でも、何故か、エルフの王様に会えることになった!


「王に通すが敵意を見せたら射る!」


 美しい羽で飛びながら弓矢を向けるエルフさんたち。ひえぇー、矢が怖いよー。


「わはは! そんなことをしてみろ! 俺にならいくらでも構わんが! もしちゅまに向けたら、全て受け止め、へし折る!」


 ガザムさんは左手をぎゅっと握った。

 少し前の、部下さんたち武器めり込んじゃった出来事を思い出すと、ガザムさんなら本当に矢を受け止め、折っちゃいそうだ。


「こちらは武器を持っていない! 弓矢を下ろしたらどうだ!」


「それはできかねる! 貴様は肉体があれば何事もできそうだからな!」


 肉体が強いというのは、時には不便だな。敵意はないと言っているのに、それだけで、敵視されるのだから。


「ふむ、こればかりは仕方がない。おとこたるもの、肉体一つで戦うべし! と、思ってきたからな。これだけは曲げられぬ!」


 その考え方は、男らしく素敵だな。そう思ったから、勇気を出してガザムさんに耳打ちした。


「ガザムさん、かっこいいです」


「そうだろう! わはは!」

 

 ガザムさんの頬が赤く染まった。私も何だか顔が熱い。でも、本当のことだ。こんなに男らしい人はガザムさんしかいないと思う。


 そんなことを思いながら、エルフさんたちに監視されつつ、進んでいき、着いた先には。


「これが聖なる木『アイレット』かー……」


 聖なる木『アイレット』。ここから、里の名前を取ったらしい。

 大木で、多数の木が集まったように見えるけど、主幹しゅかんの株の根本からのひこばえが成長したものだ。

 主幹しゅかんは朽ち果て空洞になっている。そこに、美しい氷像のようなエルフさんが幹でできた椅子に座っている。頭には宙に浮いている金の王冠がある。


「ガザムか。こんな僻地に何用だ」


 白い肌に、ライトブルーの長髪。容姿もだけど、声も透き通るように透明なのに、氷みたいに冷たい。長いまつ毛の下の、切れ長いシアンの瞳に見つめられれば、凍ってしまいそうだ。


「和平を結びに来た!」


「和平? 笑わせる。我々を見かけたら、闘争を吹っかけてきたのは貴様らであろう」


 エルフの王様は鼻で笑った。うーん、なんか、雲行きが怪しいなー……。


「それは謝る! すまなかった!」


 ガザムさんが深々と頭を下げたので、私も慌てて頭を下げた。


「……ガザムよ」


「何だ!」


「貴様、どうした? その担いでいる女にうつつを抜かし、脳が壊れたか?」


うつつなど抜かしていない!」


「抜かしているだろう! 鼻の下を伸ばしおって!」


「鼻の下を伸ばして何が悪い! ちゅきなんだから仕方がなかろう!」


「ちゅきとはなんだ!」


「見ろ! 俺のちゅまを!」


「わっ!」


 ガザムさんに両脇を掴まれ、持ち上げられた!


「見ろ! この可愛さを! 生きてるだけで偉い! ありがとう! 可愛い! と思うだろ! これがちゅきだ!」


「そんなものは知らぬ! 威厳は! 威厳はどうした!」


「威厳!? そんなものは忘れた!」


「嘘だ!」


「本当だ!」


「嘘だ!」


「本当だ!」


「嘘だぁー! 嘘だぁあー……!」


 エルフの王様は涙を流しながら両腿をバシバシと叩いた。この光景どこかで見たような……。あー、あのブランド店のオーナーさんだ! ……ガザムさんに感化されると、みんな腿を叩くようになるんだろうか……。






●●●●



 あとがき。


 ……(笑)

 次回、エルフの王様が、何故に泣いたかがわかります。

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