第12話 ここでも歓迎されていなーい!

「わはは! そんな事もあったな! 懐かしい! あれはあれで楽しいがな! 今はメヒアと買い物をしたりする方が楽しいのだ!」


「戦うよりもですかい?」


「そうだ! お前たちも添い遂げたい相手を見つければわかる! ではな! 行ってくるぞ!」


 ガザムさんはまた私の肩を抱き、歩き始めた。

 振り返ってみると、オークさんたちはパタムと睨み合いをしていた。ちゃんと考えてくれているみたいだ。

 見つかるといいですね。夢中になれる、ちゅきになれる、何かを。






 こうして、ガザムさんとエルフの里に向かっている。


 エルフの里、『アイレル』。

 自然豊かで、聖なる木を守るように暮らしている、らしい。

 

 らしいというのは、エルフ以外の種族が入ることを禁じられている。というよりも、入ろうとすると、追い返されるらしい。だから、実情はあまり知られていない。


 そんな所に向かって大丈夫なんだろうか。


「そうだ! うっかりしていた! すまないメヒア!」


「はいっ!?」


 ぼんやりと考え事をしていたから、驚いた。


「靴を買うのを忘れていた!」


「大丈夫ですよ」


「いいや! 俺が大丈夫ではない! よって!」


「うわぁ!」


 ガザムさんにパタムのように担がれ、そのまま右腕に座らされた。


「お、重くないですか!?」


「軽い軽い! 綿のようだ!」


「疲れたらすぐに言ってくださいね!」


「わはは! お前のことで疲れることはない!」


「——……」


 ガザムさんはあったかくて嬉しい言葉ばかりくれるなー。







 こうして、ガザムさんに運ばれながら、エルフの里へと向かっている。



 この世界には色んな種族が暮らしている。


 人口が多いのが、私たち人間と、エルフ。その次がオークだ。


 人間とエルフは、領土を広げるために争い、エルフとオークは、昔から伝わる成り立ちで争っている。オークはエルフを堕落させたもの。エルフはこんな醜い者が我々と同じわけはないといい、オークはお前たちがいたからこうなった、と。


 ……誰も争うことなく、悲しい思いをすることなく、過ごせるなら、それが一番いいんだ。


 だから、エルフさんと和平を結ぶ。ガザムさんの意見には大賛成だ。


 私は人間の代表じゃないけど、エルフの里へ行けば、主たる種族が揃う。私たちが話し合って決めた道なら、他の種族も同意してくれるはずだ。


 そうしたら、血を流し、大切な人を失う争いは、なくなる。

 うん、頑張ろう。べそをかいてでも。


 そう思っている内に、『アイレル』に着いた。


 初めて見たけど。


「素敵ー……」


 ツリーハウスがたくさんだ。木の根元に作られた家もあれば、木の天辺てっぺんに作られた家もある。

 お家は木造で、屋根はしっかり赤や茶色の瓦のもあれば、木と同化していたり、花で覆われていてその上を小鳥さんたちが飛んだりしているのもある。

 そして、木同士を吊り橋が繋いでいる。その吊り橋も可愛く、床は木製で手すりの縄に光る花が結ばれていてる。そんな吊り橋をエルフの子供たちが走って揺らして遊んでいる。


「可愛いなー、こんな場所に——」


「こんな場所に住んでみたいものだな! 俺には似合わないがな! わっはっは!」


「——……」


 ガザムさんも同じことを思ったんだ、嬉しいな。と、胸があったかくなったのも束の間。

 何かがしなる音が聞こえ、見上げると、


「侵入者よ! 立ち去れ! さもなくば射る!」


 ツリーハウスや吊り橋から、エルフさんたちが弓矢を私たちに向け構えていた。


 ここでも歓迎されていなーい!

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