第2章 威厳はどうしたー! ちゅきって何だー!

第11話 ちゅきを見つけろ!

 翌朝。


「俺たちはエルフの所へ行く!」


 ガザムさんは部下さんたちの前で、私の肩を抱きながら言った。

 エルフの里へ行ったら、花冠と指輪を永久に保存できる魔法はないか聞いてみようと、思っていると。


「戦いですかい!」


「うおぉおー!」


 と、オークさんたちは戦闘モードだ。


「違う! 和平を結びに行くのだ!」


「…………」


 少しの沈黙後、


「ふざけないでくだせー!」


「和平なんてくそくらえ!」


「武器がガラクタになっちまう!」


「お前が来てから王は変だー!」


 部下さんたちにびしぃ! と指された。


「はひいぃー! すいませーん!」


「何を言う! これが本来の俺だ!」


「違ぇ! 王はまたそいつに呪われたんだ!」


黒聖女サン・ノワールめー!」


 オークさんたちが、斧などの武器を持ち上げた。

 昨日は少しは祝福してくれているかと思ったけど、やっぱり歓迎されていなーい!


「そうか! 武器があるからいけないのだな! お前たち! 武器をここに置け!」


「何をするんですかい!」


「いいから早く置け!」


 オークさんたちはぶつぶつと文句を言いながら、ガザムさんの前に武器を置いた。棍棒、メイス、モーニングスターなどの二百を超える武器が山積みにされた。


 ガザムさんは私から手を離し、腰を落とすと、


「ふんっ!」


 武器の山に拳を振り下ろした。たくさんの武器は砕かれ、地面にめり込み、大きな穴の奥深くに落とされた。

 これが、オークさんたちを束ねる、ガザムさんの力……。


「これで武器はなくなったな!」


 晴れ晴れした表情のガザムさん。


「武器があぁー……」


「おでの武器があぁー……」


 オークさんたちは意気消沈だ。確かに、戦意喪失させる効果的な方法だったかも……。


「武器がなくなったのなら!」


 ガザムさんは足元に置いておいた、ロール状のパタムを担ぎ、伸ばしながら千切ってオークさんたちに配って回った。


「闘争以外のちゅきを見つけろ! そして! ここに書くのだ!」


「女!」


「交尾!」


「女!」


「交尾!」


「それ以外だ!」


「そんなもんはねぇです!」


「いいやある!」


 ガザムさんとオークさんたちの言い合いは、中々終わらない。


「じゃあ王は何だと言うんですかい!」


「俺がちゅきなのはメヒアだ!」


「女じゃねぇですかい!」


 ……確かに。


「違う!」


「何が違うんですかい!」


「お前たちの言う女とは! 性行為をする対象なだけだ! メヒアはそのためだけの女ではない!」


「じゃあ王は交尾しなくていいと言うんですかい!」


「いいや! したい!」


「——……」


 清々しいほど真っ直ぐだから、余計に恥ずかしいよー。


「だがそれは! 全てを片付けた後だ! 俺はメヒアと出会い! 闘争よりも愛する事の方が楽しく幸せだと気づいた! よって! 種族間の争いをなくそうと思う!」


「戦いなき世界なんて嫌だー!」


 オークさんたち大ブーイング。ガザムさんは構わず続ける。


「その口開けとして! エルフと和平を結んでくる!」


「あいつらはオレたちが! 戦うしか脳がない醜い容姿の生き物と決めつけている!」


「話なんか聞いてくれるわけがない!」


「それはお前たちも同じであろう!」


 低く体を突き抜けるような、ガザムさんの声が響き渡った。


「エルフは容姿が美しく、俺たちを見下していると決めつけている! そんなお前たちがエルフとぶつかれば! 争いが起きるのは必然だ!」


 説得力ある力強い言葉に、オークさんたちは静まり返った。


「だから! 俺とメヒアで話をつけてくる! 我々は武器を捨てた! 愛に生きると!」


「無理に決まってますってぇ」


「ならば! 和平を結べなかったならば! お前たちと勝負をしてやろう!」


「え……、それはダメ——」


 「ダメです」と言おうとしたら、


「嫌ですってぇ、王は十歳から負けなしじゃないですかい」


「…………」


 ん?


「恐ろしいですって、オレたち全員で挑んでも、血だらけになっても、体一つで楽しそうに笑いながら薙ぎ倒していくんですから……」


「んだんだ、トラウマだ」


「時々、夢に出る……」


「勘弁してくだせぇ……」


「…………」


 ガザムさんって本当にすごい人なんだな……。

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