第9話 君はリギル

「決まっただろうか!」


「あっ、はいっ。決まりましたっ。着けてきますっ」


「うむ! 脱がすのが楽しみだな!」


「——ガザムさんのエッチー!」


「わはは! 男はみんなエッチだ!」


 ガザムさんが言うと、どんな言葉も楽しくなるから不思議だ。

 そう思いながらまた試着室に入りカーテンを閉めた。ワンピースを脱ぎ、下着を着ける。うん、やっぱりこの方が落ち着く。

 そしてまた、ワンピースを着た。


「……うん」


 鏡に写る自分を見て頷いた。似合っている、大好きな人がそう言ってくれたんだから、自信を持って着ていこう。


「お待たせしました」


 カーテンを開けて試着室から出た。


「うむ! よい買い物ができたな!」


「はいっ」


「店主よ! ここが気に入ったぞ!」


「ありがとうございます。では、これを」


 オーナーさんが両手ですっと黒いカードを差し出した。


「これは?」


「当店の会員証になります」


「なるほど! 最初のランクということだな!」


「いいえ、最後のランク、VIPでございます」


「えぇー!」


「当店で最初のVIPでございます」


「えぇー!」


「わはは! それはいい! また来るぞ!」


「またのお越しを」


 オーナーさんがそう言うと、他の店員さんは入口を挟むように二列に整列し、うやうやしく頭を下げ、


「お待ちしております」


 と、言った。


 他のお客さんが騒めく中、


「わはは! うむ! また来るぞ!」


 ご機嫌なガザムさんはまたゴン! と頭を入り口にぶつけ「わはは! これまた失礼!」と、笑いながら店を出て行った。


「ありがとうございました!」


 オーナーさん、店員さんに深々とお辞儀をして、大きな背中を追いかけた。






「そうだ! メヒア! 寄りたい所があるがよいだろうか!」


「はい、もちろんです」


「では! 少し待っておれ!」


 ガザムさんがずんずんと入っていった

お店は、


パタム店?」


 パタム専門店、『パタタン』だった。

 白い柱にガラス張りの壁。そこからパタムをすいている店員さんや、棚に並ぶ丁寧に折り畳まれたパタムが見える。


 あ、パタムいている店員さんに、ガザムさんが身振り手振りで話している。店員さん、目と口を大きく開き、簀子すのこごとパタムを水の中に落としちゃった。そして、何度も頭を下げて、店の奥に入っていった。


 ん? 戻ってきた。戻ってきたけどー! ロール状になっている大きなパタムを、大人の男性十人がかりで運んできたー! それを、ガザムさんに渡したー!


 店員さん十人みんな、なんか重さで疲れて手足プルプル震えているのに、ガザムさん軽々と肩に担いじゃった、すごいなー。


 あ、また謎の胸元から謎のお金が入った布袋を取り出して床に置いた。店員さん深々とお辞儀。


「待たせたな!」


 パタムを肩に担いださっきより上機嫌なガザムさんが戻ってきた。


「いいえ。それ何に使うんですか?」


「いいことだ!」


「いいこと、ですか」


「うむ! さぁ! 帰るぞ! 部下たちの元へ! 今日は挙式で宴だぁ!」





 こうして、オークさんたちの移動集落に戻ってきた。

 さすがはオークさんたち、力持ちでてきぱきと木を切り、太く長い木材二本、その上に短い木材二本横にし釘打ち。さらにその上に頑丈な平らな木材を釘打ちし、あっという間に大きな担架のようなものが完成した。


「王はまだか!」


「はひぃー! すいません!」


 お祭り好きなのか、オークさんたちはそわそわしている。


 肝心のガザムさんはというと、「俺も準備してくるぞ!」と、どこかに行ったきり、かれこれ一時間以上経っている。


 あ、何かを手にして、すごい笑顔で帰ってきた。あれは、お花?


「待たせたな! これをお前に!」


 そう言って、頭に載せてくれたのは、


「花冠?」


「うむ! 黒い髪のお前に! 絶対に似合うと思ってな!」


「——……」


 ダメだな、泣き虫は直らないや。また涙が出てきた。


「あとはな! これが花冠よりも難しかった! 左手を出すのだ!」


「はい……」


 右手で涙を拭きながら、左手を出すと、薬指につけてくれたのは、


「可愛い……」


 花指輪。

 小さい白の五弁花、中心の雌しべの花柱が五つに分かれていてお星様みたいだ。その周りにある十の推しべが星の光みたいでさらに可愛い。


「これを見た瞬間! お前だと思った!」


「こんなに白くて可憐な花が私……」


「手先は器用でないからな! 不格好だが許してくれ!」


 確かに花冠はぶかぶかで、押さえていないと下がってくる。指輪も指のサイズに合っていなく、指の付け根まで下がってきちゃった。

 輪の部分も茎がしっかり巻かれていたり、緩かったりとバラバラだ。


 でも、それが、ガザムさんらしくて、あったかい。


 どんな、高価な指輪よりも、嬉しい。


「——ガザムさん」


「うむ!」


「可愛い花冠と指輪を、ありがとうございます」


 こんなに素敵な贈り物をもらえるなんて、私は、世界で一番、幸せな花嫁だ。





●●●


 あとがき。


 暑苦しいガチムチロマンチスト王(笑)


 花冠とか作ったことありませんが、それが何か?(笑)

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