第7話 私、黒聖女でよかった。

「……これ」


 私はガザムさんが選んでくれたワンピース。白の、ワンピース……。


「…………」



 黒聖女サン・ノワールの私は、どうしても捨て切れない憧れがあった。それが、白聖女サン・ネージュで一番身近にいたお姉ちゃんだ。


 白く美しい髪に、それに負けないくらいの透き通るような肌。そして、光を象徴するような純白の洋服。


 いつだったか、小さい時、こっそり隠れてお姉ちゃんの服を着てみたことがあった。

 白聖女サン・ネージュになれたみたいで嬉しかった。嬉しくて嬉しくて、くるくる回っていた。


 でも、その嬉しさは一瞬で悲しみに変わった。



『何やってんのメヒア!』



 頬をお母さんに引っ叩かれた。


 最初は、何が起こったのかわからなかった。

 じわじわとやってくる痛みと熱で、私は叩かれたのだと、少ししてからわかった。


 黒聖女サン・ノワールの私は、白を身につけてはいけないということも、わかった。


 それからは、下着からお皿など日常品まで、白を遠ざけてきた。……ううん、白から離されたんだ。


 家にいるのも嫌になり、町に出ても、白い漆喰の建物ばかり。

 花壇に咲いている可憐で小さな白いお花も、好きだったはずなのに、段々と見ているのが辛くなってきた。




 白いもの全てが。





 私を、嘲っているみたいで。





『何であなたは黒いの?』





 と。



 だから、時々、町を抜け出して、人気が少ない川辺で思いっきり泣いた。



 そんなの私が聞きたいよ、と。



 髪が黒い、瞳が黒い、癒しの力がない。




 それだけ、なのに。




 それだけ、で、




 他はみんなと、同じ、なのに。




 何で、と。




●●●




「…………」


 そんな私が、今、純白のワンピースを手にしている。


 それも、私が要望した、シンプルで、でも胸元の花レースが可愛くて、動きやすいカジュアルなカットソーワンピース。


 こんなに素敵なものを着ていいのかな……。


「私なんかが……。あ、あははっ、また言っちゃった……。これで、また“ちゅき”二回だ……」


 涙は拭いても拭いても出てくる。でも、これ以上ガザムさんを待たせてはいけない。


 来ていたボロボロの布服を脱いで、ワンピースを被り腕を通した。


「……ガザムさん、着てみました」


「うむ! では! 開けるぞ!」


 勢いよく開かれたカーテン。私は恐る恐る振り返った。


「——……」


 ガザムさんは私を見ると、一瞬目を見開き、頬を赤くすると腕を組み大きく頷いた。


「うむ! 俺の見立て通りだ! お前の黒い髪に白い服がよく映える!」


「ありがとう、ございます……」


「だが! 服も良いが! その服を着たお前が一番可愛いぞ!」


「——ガザムさん」


「何だ!」


「ありがとう、ございます……。私、黒聖女サン・ノワールでよかった。今、とっても、幸せです」

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