第6話 聞いてましたー!?

 ガザムさんを追いかけると、


「何故だ! 何故入ってはいかん!」


 早速、店員さんに数人がかりで両手で押さえ、引き止められていた。

 わー! ごめんなさーい! 私が思い出すのが遅くてー!


「ここは会員制ですので……」


 オーナーらしき、白髪でビシッと濃茶色スーツを着て銀の片眼鏡アンクルをした、高齢のダンディな男性がびくびくと顔が引きつった笑顔を見せた。


「そうか! 会員になるにはどうすればいい!」


「百万の入会費をいただきます」


「…………」


 ぼったくりですか!?


「わかった! 払おう!」


「えぇー!」「えぇー!」


 オーナーさんと声が重なってしまった。


「いやいや! 他人から奪ったお金で支払われても……」


「…………」


 それはオークさんに対する偏見じゃあ……。


「わはは! 心配するな! この金は俺が賞金首を倒して稼いだ金だ!」


 と、ガザムさんは、ブルゾンの中には手を入れると、胸元から大きな茶色の布袋をガシャッと床に置いた。胸元に異空間でもあるんだろうか。


「これで足りるか! 俺は計算は苦手だ! 数えてくれ!」


「一、十……」


 オーナーさんが布袋の紐を解き、数えていく。


「五百! 五百はあります! いただきすぎです!」


「ならば! 全て受け取るがよい!」


「聞いてましたー!? いただきすぎなんですよー!」


 オーナーさんは大声でそう言い、自分の両腿を叩き、ぜぇはぁと苦しそうに息をした。

 オーナーさんがガザムさん化し始めているような……。リアクションが大きくなってきている……。


「百万以上のその他は! ちゅまへのプレゼント代だ!」


「そうですか……、洋服代なら有り難く頂戴します……」


 オーナーさんはまだ苦しそうに、ひぃはぁと息をしながら店の奥に戻っていった。お疲れ様でした……。


「さぁ! お前に似合いそうな服を選ぶぞ! 何か要望はあるか!」


「…………」


 好きな服を選ぶ。なんて、普通の事なんだろうけど、私にはがなかった。

 黒聖女サン・ノワールは、服すら選んではいけなかった。私が着たい服……、ダメだな、また涙が出てきた。


「……シンプルで」


「シンプル!」


「……可愛くて」


「可愛い!」


「……動きやすいのが、好きです」


「動きやすい! わかった!」


 ガザムさんはすたすたと奥に入っていった。私は、涙を拭きながら入り口近くで待っていた。


「決まったぞ!」


「早っ! 早いですね」


 ガザムさんの早さのおかげで、涙は少し引っ込んだ。


「え……、でも、これ……」


「さぁ! 着替えるのだ!」


 私の戸惑いは他所に、ガザムさんは私の両肩を掴むと、ぐいぐい試着室へと押していく。

 そして、あっという間に試着室の中へと押され、


「着替えたら声をかけてくれ!」


 シャッとカーテンを閉められた。




●●●●



 あとがき。


 次回、ちょっとシリアスで切ない回、メヒアの過去について、ちょっぴりわかる回です。

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