第5話 その第一歩として!

「でも、大丈夫でしょうか?」


「何がだ!」


「オークさんは、血気盛んで戦闘が好きな種族だと、お聞きしています。だから、その……、ちゅ、ちゅきで世界を包んだら、戦闘ができなくなるのでは」


「心配いらん!」


「え……」


「部下たちの燃えたぎる闘争心は! 俺が受け止めるからだー!」


「……えぇー!?」


 オークさんたちは国を持たずに、移動集落みたいな形で過ごしているけど。

 え!? 二百人はいるよ!? それを受け止めるの!?


「それはダメです! ガザムさんが死んじゃいます!」


「心配か! そして、反対か!」


 こくこくと頷いた。


「うむ! ならばやめよう! あいつらの力など、ちゅきで跳ね返せばいいと思ったのだがな!」


 また否定されなかったー! そして、ちゅきで跳ね返すってどうやってー!?


「ならばこうしよう! あいつらをちゅきにさせるんだ!」


「?」


 どうしよう、いよいよわからなくなってきた……。


「闘争への熱を! 別のものに向けさせる! 闘争よりちゅきなものができれば! 争わずに済む!」


「あ、なるほど……」


 趣味のようなものを作り、そこに情熱を注がせる、ということか。


「その第一歩として! 種族を超えた愛は素晴らしいと! ちゅきに勝るものはないと! 盛大な式を挙げたい!」


「……え!?」


「だからやはり服は見ていこう! 俺が選んでやる!」


「いやっ、ですからっ、私なんかに——、あっ!」


「はい! “ちゅき”二回ー!」


「あぅあー……」


 このルールすごいよー、私、一日何回“ちゅき”って言うんだろー……。


「うー……、ガザムさんちゅきです、ガザムさんちゅきです」


「うむ! 俺もだいちゅきだー!」


「わかりましたからー!」


「では入るか!」


 振り返り、お店に入ろうとしたガザムさんは、


 ゴン!


 勢いよく入り口に頭をぶつけた。そりゃそうだよね、身長二メートル以上あるんだもん。痛そうだなーと見ていたら、


「わはは! これは失敬!」


 豪快に笑い飛ばし、身を屈めて中に入っていった。背中を丸めた姿は、何だか可愛かった。


 でも、


「うー……」


 高級ブランド店『グラスタ』。外装から豪華で気後れする。


 全体的には白い建物で、入り口とショーウィンドウを挟むように、白いきれいな柱が建っている。

 そして、柱を繋ぐように金の装飾がアーチ状になっている。その上に、花や葉のこれまた金の装飾、その間に創立者と思われる人の金の顔型装飾。

 アーチ上の下には、黒地に金文字看板『GLASTAグラスタ』。


「うぅー……」


 入り口で尻込みしちゃうよー。


 でも、ガザムさんが服を選んでくれるって言ってくれた。その気持ちを大切にしたい。


「ん? でも、確かここって……。そうだ! ガザムさーん! ここ会員制ですよー!」


 私は慌てて大きな背中を追いかけた。

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