最弱王決定戦

昼休み、厚とタケの二人は日課のように、教室でクラスメイト数名から『悪ふざけ』という名の暴力を受けていた。他の生徒達はそれを見てバカ笑いしているか、我関せずとばかりに無視を決め込んでいた。

まあ、どこにでもある光景である。

腹に軽いジャブをもらったタケは、ワイヤーアクションのように大袈裟にぶっ飛ぶと、地面にうずくまって情けない声を上げた。

「も…もうやめてくれェ~!なんでもしますからァ~!」

いじめっ子のリーダー格である井上という茶髪の男は、タケを見下ろしながら言った。

「う~ん…別にやめてあげてもいいぜ?ただし俺の命令に従えばな」

タケは上目遣いで井上を見上げると、ニヤケ気味に呟いた。

「え?あの…やっぱ性的な事はちょっと…」

「バカかテメー。今からお前ら2人で殴り合え、勝った方はもうイジメないでやるからよ」

彼の言葉に、いじめっ子達は野太い歓声を上げた。

「おっ!オモシロソーじゃん」

「最弱王決定戦だ!最弱王決定戦!」

そんな彼等に厚はほとほと辟易した様子で、重い口を開いた。

「ざっけんな、誰がそんな…ぐぇっ」

厚は腹部に強い衝撃を受け、その場に片膝をついた。顔を上げると、タケが品の無い笑みを浮かべながら立ち尽くしていた。どうやら彼にタックルをされたらしい。

厚が目を白黒させていると、タケが言った。

「ワリイな厚、俺もこんな生活はコリゴリなんだよ。分かってくれるよな?な?」

「…マジ?うげっ」

続けて厚はタケから左頬にパンチを食らった。その威力はいじめっ子達の暴力と比べても遜色がないばかりか、上回ってさえいた。やはり彼は本気らしい。いじめっ子達は興奮気味に沸き立った。

「ひゃはは、武田やるじゃーん」

「こーろーせ!こーろーせ!」

「こーろーせ!こーろーせ!」

教室中に『殺せコール』が鳴り響いた。さっきまで無視を決め込んでいた生徒達も、いつの間にか一緒になって叫んでいた。

タケのボディブローを受けた厚は、よろよろと力なく井上に倒れかかった。

彼は厚を羽交い締めにすると、耳元でこう呟いた。

「おい薄井ィ~やる気出せよ面白くねーな~、じゃねーとお前の美人な姉ちゃん…輪姦まわしちまうぞォ」

「…クソ野郎」

厚は井上の腕を振り払うと、彼に殴りかかった。

「やんのかホモ」

しかし井上に蹴りをかまされ、厚は無様にも背中から転倒した。その時、彼の制服のポケットから何かがポロリと落ちた。

それは昨夜、姉からプレゼントされたフィギュアだった。厚は思わず青ざめた。

「何だこれ、キメ~~」

「おい、それは…!」

井上はフィギュアを拾い上げると、渾身の力を込めて首の部分をねじ切った。

「首ちょんぱ成功~」

「………」

それと同時に、厚の中の大切な何かも一緒に切れた。髪が下敷きで擦ったかのようにウネウネと逆立ち、額には漫画のような血管が何本も浮き出た。

「なんかメッチャ髪の毛逆立ってんですけど」

「ウケる」

「スーパーヤサイ人だ、スーパーヤサイ人」

はしゃいでいるのも束の間、いじめっ子の一人がある異変に気が付いた。

「なぁ井上、何か顔…変じゃね?」

「あぁ?オメーに言われたかね…」

言い終わる前に、彼の顔が水風船のように膨張すると、映画『スキャナーズ』の如く破裂した。


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