着信
『死なないで!死なないでケンジ!』
『ゴホッゴホッ!あー苦しい…』
陸海空と浅井亜那は映画館内中央の座席に腰掛けながら、3Dメガネを掛けてティーン向け恋愛映画である『愛空』を視聴していた。スクリーンには、経鼻チューブをつけて病院のベッドに横たわる妙に血色の良い男と、その傍らで鼻水を垂らしながら号泣する女が映っている。
さりげなく浅井の方に眼をやると、彼女は無表情のまま、機械的な動作で淡々とキャラメル味のポップコーンを口へ運んでいた。
…なんかさぁ、良くも悪くもメチャクチャ想像通りなんですけど、この映画。つーかこれ3Dの必要ある?まったく、こんな茶番劇で泣く奴いんのかよ…。ん?
ふと隣に眼をやると、肥満体系の中年男性が鼻を啜りながら大粒の涙をボロボロとこぼしていた。
すぐ傍にいたよ…。まあ、逆に幸せなのかもな。こんな安いお涙頂戴で素直に泣ける方が…。うわ鼻水キッタなっ。それと靴脱いでんじゃねーよ、さっきからクセえと思ったらよ。
『さようならヨウコ、愛してる…』
彼氏役の男はそう言い残すと、安らかに目を閉じた。
…と、その時───。
『オラハ死ンジマッタダ~♪オラハ死ンジマッタダ~♪』
「あっヤベッ!携帯の電源切るの忘れてた…!」
陸海は大慌てでポケットをまさぐった。
「ちょっと何やってんの…!早く消しなよ」
「分かってるよ…!ゲッ床に落とした!」
『オラハ死ンジマッタダ~♪』
「おい何だよこのアームはァ~!」
映画を見終えた二人は、ゲームセンターへと移動していた。UFOキャッチャーで景品を取ろうと血眼になっている陸海の側で、浅井は心底興味なさげに携帯をいじっていた。ガラスケースの中には目が吊り上がった不気味なキャラクターがいくつも置かれている。
「いい加減に諦めたらァ?」
陸海は名残惜しそうにレバーから手を離した。
「チッ、仕方ねぇ。そういえば…誰だっけ?あのバスケがしたそうな髪型の奴」
「…君野がどうかした?」
「あれから学校来てねーらしいじゃん」
浅井は携帯を見つめたまま、呟いた。
「うん、なんか家にも戻ってないみたい。まあ、そんな余計なこと考えないで楽しむ時は楽しまないと。あ、アレやろうよ」
そう言うと彼女は近くにあるパンチングマシーンを指さした。
「ノッた」
陸海は意気揚々と筐体に小銭を入れ、グローブをはめると、いいところを見せるために助走をつけて殴りかかった。
その刹那、薄井幸の忠告が彼の脳裏をかすめた。
しかし、時すでに遅し。彼の一撃により、パンチングマシーンは筐体毎、後ろにひっくり返った。騒ぎを聞きつけて、店員が血相を変えて向かって来た。
「ヤベッ!店員来た!逃げろ!」
「ちょっ!待っ…」
その日の帰り、暗い空のもと、2人は横に並んで黙々と歩いていた。辺りはやけに静まり返っている。
「今日はなかなかスリリングな一日だったよ」
「…そいつぁどうも」
「…そうだ、今日は大事な話があるんだった」
「え?」
思わせぶりなセリフに、陸海は思わず胸を躍らせた。
おい、これってまさか…まさかだよなぁ!?今回こそは期待していいんだよなぁ?
「な、何よ急に改まって」
浅井は伏し目がちにポツリと言った。
「…実は明日、引っ越すんだ」
「…ん?」
目が点になっている彼におかまいなしで、浅井は続けた。
「よくある家庭の事情ってヤツだよ。まだやり残したこともあるんだけど…いきなりでゴメンね」
「フーン…ソウナン…」
風船が割れたかのように、陸海の期待は一瞬にして打ち砕かれた。
「だから、その前に…うっ」
浅井は顔に何かの飛沫のようなものを受けて目を閉じた。ゆっくりと目を開けると、頭部に槍のような何かが刺さった陸海が、血を出して地面に転がっていた。
「…は?」
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