映画館
約束当日、陸海空は待ち合わせ場所であるイ○ンモールの入り口付近にて、ソワソワした様子で浅井亜那の到着を、首を長くして待っていた。
その落ち着きの無さたるや、警察に見られれば職質でもされかねないほどである。
「ったく、遅ェなぁ…。何をチンタラやってんだか、来たら文句言ってやろうか」
「お待たせ~!」
聞き覚えのある声に振り返ると、盛り袖で淡いピンクのトップスと、デニムに身を包んだ浅井が手を振っていた。
………う~ん、許す!!
陸海の苛立ちは、性欲を前に一瞬にして消え去った。
「ゴメ~ン、待った?」
「いーえ、ちっとも~!そんじゃ入りまひょ入りまひょ」
施設内に足を踏み入れると、休日というのもあって多くの人で賑わっていた。二人は一階通路を歩きながら、たわいも無い会話を交わした。
「まず、初めにどこ行こっかー」
「まーとりあえず迷ったら映画館と相場が決まって…」
「あれっ?亜那じゃーん!?」
…ハァ?
不意の呼びかけに二人が振り向くと、大柄でサイドを刈り上げた短髪の少年の姿があった。浅井は一瞬ハッとした顔を見せると、笑顔で言った。
「あーカズキ!超久しぶりー!」
「おー!やっぱそうか!卒業以来だっけ?」
「………」
更にハァ?何コイツ邪魔してくれちゃってんの?三行以内に消えろ。バカ。アホ。クソモブ。使い捨てキャラ。
冷めきった様子の陸海をよそに、2人は偶然の再会を存分にエンジョイしているようだった。
「つか髪染めた?メッチャ似合ってんじゃん」
「ウソ~、ありがと」
「………」
「カズキも超背伸びたねー、最初誰か気づかなかったわ」
「まーなー」
「………オホン!ゴホッ!ウェッホォン!!」
「…ん?」
カズキという少年はようやく陸海の存在に気づいたのか、馴れ馴れしい口調で話しかけてきた。
「あっ、もしかして彼氏?」
「いや、俺はただの…」
「そう、あたしの彼氏」
「ソーナノ!?!?」
陸海はまるで他人事かのように驚いた。
…へェー、俺って彼氏だったのかァ。そっかー、フーン。
締まりのない笑みを浮かべながら赤面していると、カズキが親し気にガッシリと肩を組んできた。
「おい羨ましいなお前ー!」
「ハハハ…」
顔ちかっ。声デカッ。息クサッ。
「じゃ、友達と待ち合わせしてっからさ。またな!」
「うん、またね」
去っていくカズキを見送ると、不意に浅井が呟いた。
「いきなり彼氏とか言ってゴメンねー、ジョークだよジョーク」
えっ冗談かよ?俺のドキワク返せよ。
「今の奴は…元カレか何かか?」
「違うよ、中学ン時の友達」
一拍置いて、浅井はこう続けた。
「まあ、一回キスしたけど」
「………」
やっぱビッチか?コイツ…。
その後、2人は映画館に足を運んだ。窓口には彼等と同年代くらいの若者の姿が多く見られた。陸海は映画のスケジュール表をまじまじと見つめていた。
「なーんか、どれもパッとしねーな…」
「これは?『愛空』。人気あるみたいだよ~」
「恋愛ものかぁ…どうせ最後は片方が難病で死んじゃうんでしょ?」
「じゃあコレ。『ヴィーガン』」
「なんかロボットの女の子が肉食ってる奴を片っ端から殺す話だっけ?あー…パスで」
「…コレはどう?『世界の中心が俺だったんだが?w』」
「あー、あの意味不明なクソアニメだろ?ダセェ名前のキャラばっか出るやつ」
陸海の優柔不断っぷりに痺れを切らしたのか、浅井は軽く嘆息した。
「もー否定ばっかり…じゃあどれにすんの?」
「いや、ちょっと待ってくれって…!」
そんな2人の様子を、遠くから見つめる人物がいた。その男は憎しみのこもった口調で独りごちた。
「フンッ、ヘラヘラしてられんのも今のうちだぜェ。あのチンポ野郎が…」
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