デート
「じゃあまた明日、イ○ンで会おう」
「…うん」
別れの挨拶を手短に済ませると、羽賀は背を向けて気取った歩き方で去って行った。天はそれをしばらく見送った後、やがて玄関の戸を開け、中へと入った。
向かいのアパートに住むストーカー男はその一部始終を、下唇を血が出る程噛みしめながら、気が気じゃない様子で眺めていた。
「あのクソジョン・コナー野郎…!許せねえ、僕のフィアンセに馴れ馴れしく近づきやがってェ~!殺す…殺してやるゥ~!」
男の心が憎しみに支配された時、彼は身体に異変を覚えた。
「な…何だ?気分がえらく悪いぞ…!は、吐きそうだ…!ウゲエエエ!」
男は一目散にトイレに駆け込んだ。
翌朝、陸海空は2階の自室から階下に降りると、玄関に置かれた鏡で身だしなみを入念にチェックしている妹を発見した。
「なあ、親父とお袋は?」
天は髪を整えながら気だるげに説明した。
「…父さんと母さんなら2人で旅行に行ったよ、帰ってくるのは明日だって…」
「…ふーん、まあ静かでいいけど。何だよ、今日はいつになく気合入ってんじゃん、デートか?」
「…あんたに関係無いでしょ」
そう冷たく言い放つと、天は陸海を残し家を出て行った。
1人取り残された陸海は憎らし気に呟いた。
「けっ、バーカ!どこへでも行っちまえ。まったく、可愛げの欠片も無ェ奴だ…」
ふん、まあいいさ、家には今俺一人だけ…。今日は存分に羽を広げてやるぜ…!
10数分後…。
『アアン♡イクゥ~♡』
「あれ?このエロ動画前に見たな…」
また10数分後…。
「はぁっ!?当たってねーだろ!クソゲー!クソゲーだねコレ!」
更にまた10数分後…。
「おっ、ルービックキューブ初めて完成したぞ。やった~…」
それから10数分後…。
『アンアン♡ダメェ~♡』
「………」
陸海はベッドに横になると、死んだ目で天井を見上げながら独り言ちた。
「うわ…俺の休日つまんな…ん?」
突然、勢いよく上体を起こすと、陸海は呟いた。
「そういえば今日、アレの公開日じゃん。あんま期待してねーけど…行くか、暇だし…。さて、親父のヘソクリはどこだったかな…」
そのころ、陸海天は羽賀翔とイ○ンモール2階のフードコートの窓際の席で、軽い食事を取っていた。傍目には思わず二度見してしまう程の、お似合いの美男美女同士のカップルに映ったが、しかし天の表情はどこか憂鬱げだった。
「それで今日観るノーランの新作なんだけど…あっクリストファー・ノーラン知ってる?『ダークナイト』とか『インターステラー』作った人なんだけど、凄く重厚で映像美のある作品を撮る監督でだね…。まあ少し難解な部分もあるんだけども…」
「へぇ…そうなの」
羽賀の終わらないウンチクに生返事しながら天は思った。
何コイツ、全然面白くないんだけど。なぁーにが『だーくないと』よ、痛いカッコしたおっさん同士でワーワーやってるだけの金かけたコスプレ大会でしょ?ハァ、ちょっと○田君に似てるってだけでオーケー出すんじゃなかった…。もうマジ最悪。
天は携帯を見つめながら小さくため息をついた。
「ヒュヒュ…天ちゃんの匂いがするぞォ~!」
イ○ンモール2階の通路を、フードで顔を隠した怪しげなパーカー姿の男が、うわごとのように何かを呟きながら、ポケットに両手を突っ込んで歩いていた。
その前方から向かって来た、品の無い風貌をした男と、彼の肩がぶつかった。品の無い男は逆上してパーカー男に掴みかかると、彼のフードを強引にまくりあげた。
「おどりゃどこに眼ェつけとんじゃコラ、面見せ…キ、キャアアアア!!」
品の無い男は女のように絶叫した。
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