第8話
「あぁ、クソッ。 絶対始まってるぞこれ」
祐平がそう毒づきながら歩いているには理由があった。
歩いていると定期的に戦闘のものと思われる振動や衝撃音が響き渡る。
明らかに怪物との戦闘ではなく、魔導書を持った人間同士の戦いだ。
祐平はかなり焦っていた。 笑実を探さなければならないが、それ以上に好戦的な人間と出会うと不味い。
『
あの猿は色々と役に立つ知識はくれるが、敵を排除する戦闘能力はない。
ならばあちこちを歩き回っている怪物を懐柔すればいいのではないかと考えたが、敵意を反転させて好意に反転させれば味方につける事は可能である。 だが、持続時間は無限ではないのでいつまでも操る事はできない。 能力使用の代償を知らなければ何匹も囲い込んだだろうが、とてもではないが使えなかった。
――できれば話の通じる奴と手を組めれば最高なんだが……。
角を曲がると遠くで光が瞬く。 眼を凝らしてみるような真似はせず、祐平は引っ込んだ。
代わりに耳を澄ますと戦闘のものと思われる音が響いていた。
「あぁ、これ絶対ヤバい奴だ」
そっと覗き込むが距離がある所為で薄っすらと輪郭しか見えない。 血の気の多い連中が殺し合っている可能性が高いので知らん顔をしたかったが、笑実の可能性はゼロではないので確認する必要がある。
祐平は魔導書の第一位階で『
「――っつぅ。 あぁ、便利だな畜生」
軽い頭痛に顔を顰めると闇の向こうが薄っすらとだが見えて来た。
これは『
使用には魔力と呼ばれる寿命とはやや異なるエネルギーを使用するので、魔導書の能力よりは気軽に扱える。
そこには魔導書を構えた二人の人間と彼、もしくは彼女が使役している悪魔が戦闘を繰り広げていた。
片方は羽の生えたライオン、もう片方は青ざめた馬に乗る全身鎧の騎士なのだが、騎士の方には使役者の姿はなかった。
恐らく、騎士の方は第三位階を用いて融合しているのだろう。
その為、片方だけ使役者の姿が見えた。
三十代ぐらいの男で、自身をライオンに守らせながら目の前の騎士を睨んでいる。
祐平はあいつ等は何だと質問すると、『
ライオンの方は『
能力から戦闘向きではなさそうだが、視線の先で地面を走り、時には浮遊して巧みに戦う姿を見れば戦闘能力が高い事は明らかだ。
対する騎士は『
『
『
じっと騎士の姿をした悪魔を観察する。 融合しているので分かり辛いが、笑実ではないと確信する。
彼女はここまで好戦的な性格ではない上、『
つまり関わらないのが正解だ。 悲しい事に『
祐平はさっさとここを離れようと下がろうとする前に決着が着いた。
『
相打ちに見えるが、『
『
『
祐平はこの時点で無理だと確信して、その場を離れる。
「あぁ、ヤバいヤバい、マジでヤバい」
こんなふざけた状況に乗る奴がいないと信じたかったが、目の前でしっかりと殺し合っている姿を見たので信じざるを得なかった。
見つかったら間違いなく殺される。 どうしよう、どうすればいい。
そしてこんな危険な場所に笑実を一人にする事に焦りが生まれる。
ヤバいヤバいと口にしながらも『
それが何なのかについては教えてくれるが、方針に関しては一切助言してくれない。
融通の利かない悪魔だなと毒づくが、状況が改善する事はない。
小走りに戦闘のあった場所から離れつつ、祐平は途方に暮れていた。
思考はどうすればいい? どうしよう?で溢れ返り、何もできない自分が情けなくて涙が出そうになる。
――だからだろうか?
祐平がそれに気が付くのに致命的に遅れてしまった。
不意に肩を掴まれる感触。 まったく気が付かず、驚きながらも反射的に振り払おうとしたが、気が付けば腕を捻り上げられて地面に引き倒された。
「――お前はやる気になっている奴か?」
拘束している相手からそう尋ねられ、祐平は『
「あ、あんたこそどうなんだ!? 俺は無理だ! 頼む、見逃してくれ!」
「逃げないと約束するなら手を放してやる」
「わ、分かった。 約束する」
祐平は抵抗しないと力を抜いて見せるとゆっくりと離れる気配。
拘束が解けたところで敵意がない事を見せる意味でも両手を上げながらゆっくりと立ち上がる。
視線を上げるとそこにはスーツを着た男が居た。 ネクタイは緩められており、ワイシャツのボタンもいくつか外れている。
年齢は見た所、二十代半ば。
同性の祐平から見ても格好のいい顔立ちをしており、何よりも目に力があった。
視線を男の持つ、魔導書へ向けてギクリと硬直する。 明らかにページが多かったからだ。
目測だが三冊分ぐらいはありそうだった。 緊張と恐怖で変な汗が出る。
「お、お願いします。 見逃してください」
逃げ出したいが、逃げきれるかは非常に怪しいので祐平に残された手は命乞いしかなかった。
男は無言。 祐平と魔導書を順番に見た後、微かに眉を顰めた。
「何で魔導書を使わない? 悪魔を呼び出さないのか?」
「無理だ。 俺の悪魔は戦闘には向かない。 あんたと戦っても絶対に負ける」
即答。 どう考えても戦闘特化の悪魔だ。 勝てるわけがない。
男はしばらくの間、黙っていたがややあって口を開いた。
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