第14話 それ一体どっちなのー!?
放課後、俺の家。
「……」
「……」
チッ、チッ。カッ、カッ。
人の声はなく、時計とシャーペンを滑らせる音だけが耳に入ってくる。
俺は勉強をしているからだ。
でも、問題はもう一人この部屋にいる彼女の方。
「うぅ……」
彼女がこうしてから、かれこれもう二十分ほどが経つ。
「あ、天音ちゃん……?」
「やっちゃったよ……」
「やっちゃったって、何を?」
家に帰ってきてから初めて会話が成立したので、聞いてみる。
すると、天音ちゃんはようやく顔を上げてくれた。
「わたし達の関係が……」
「あぁ……」
それで唸っていたのか。
「……」
俺は自分の手首の方をじっと見つめる。
さっき天音ちゃんに引っ張っていかれた手首だ。
今思い出してもドキドキする。
咄嗟のことで振りほどくことができなかったけど、俺は天音ちゃんに手を引かれて教室を出て行ったんだよな……?
放課後とはいえ、まだ十数人とかはいたと思うし、多分注目も浴びてた。
「あの、さっきはどうして急に?」
「そんなのわかんないよ」
「えっ?」
天音ちゃんが珍しく目を合わせてくれない。
勘違いじゃなければ、ちょっと照れてる?
顔も若干赤らめている様にも見えるし。
「教室のみんなに何て言い訳すればいいの」
「えぇ……」
さっきからの態度と言動を考えるに、天音ちゃんも「やってしまった」という感じらしい。
いつもの小悪魔っぽい態度が見えない事に少し残念な気持ちが残るけど、これはこれで可愛い。
「はぁ……」
そうして天音ちゃんはまた机に突っ伏す。
かと思えば、すぐに起き上がってきた。
「なーんて」
「え?」
舌を少しベッと出した天音ちゃん。
今の顔は、どこかいたずらっぽい天音ちゃんだ。
「わたしがそんなに落ち込んでると思った?」
「ど、どういうこと?」
「あのまま話していたら長そうだったから。君とさっさとこの家に来れたのは、結果的に良かったよ」
俺の視界の前に入って来て、斜め下から見上げてくる天音ちゃん。
もう、どれか本心なのか全く分からなくなってくる。
「今日も振り回されたってわけかぁ」
「ふふっ。そうかもね」
今回はちょっと焦ってたかなと思ったけど、天音ちゃんは天音ちゃんだったらしい。
「じゃあ、君の勉強するよ?」
「お、俺はもうやってるよっ!」
「それ不正解だから」
「ええっ!?」
急に普段の態度に戻った天音ちゃん。
試験が始まったというのに、今日も夕方まで付き合ってくれたのだった。
★
そうして、気がつけば中間テストも最終日を終える。
「そこまで」
先生の終了の合図と同時に、一斉にシャーペンを置く音が聞こえる。
「~~!」
俺も声を殺しながら伸びをして、前の席に答案用紙を渡す。
やっと終わったのかあ。
長かったようで、あっという間だった。
「……」
チラっと、教室の真ん中あたりの天音ちゃんを視界に入れる。
あの表情、余裕そうだ。
「!」
と見つめている中で、一瞬目が合う。
「あとでね」、そう聞こえる口パクを受け取って少し嬉しい気持ちになった。
結局、一日目に天音ちゃんが俺を連れて教室から出て行ったことは噂にならず。
天音ちゃんは「委員の仕事」とか言って、誤魔化したのだそうだ。
それでも天音ちゃんは人気のある子なので、たまーに嫉妬の声を聞くこともあったけど、相手が俺ということでそれもすぐになくなった。
不釣り合いだと思われたのだろうか。
俺としては良かったような、悪かったような……。
さらに、天音ちゃんは昨日も夕方まで俺の勉強に付き合ってくれた。
そのおかげで、今までで一番手応えはあるのだけど、三十番に入れるかと言われると正直分からない。
なにしろ、三十番なんて俺には未知の領域だからなあ。
あと、気になるのはやっぱりあの日の天音ちゃんの様子。
「やっちゃった」というのは、結局どういうことなんだろう。
あの時の天音ちゃんは、誤魔化せていなかった気がする。
落ち込んでいたのも、本心だったのかなとどこかで思った。
だとしたら……「俺と話したくてしょうがなかった」ということか!?
そんな考えが何日間も頭にあったけど、テスト期間だし聞くこともできず。
天音ちゃんは、俺の事をどう思っているんだろう。
最初は確実にからかわれていただけだったと思うけど、なんとなく最近は違って見える瞬間もある。
「……」
確かめたい、天音ちゃんの気持ち。
「おまたせっ」
LINEで校舎裏に来てと呼ばれていたので待っていると、天音ちゃんが来た。
「中間終わったね~」
「うん……」
「君はどうだったかな?」
「えっと……」
ダメだ、さっきの「気持ちを聞きたい」の事が頭の中を巡ってうまく話せない。
「……何か聞きたい?」
「えっ!?」
天音ちゃんのよくやる行動。
下から覗き込まれるようにして、
「ん?」
「……」
聞くならここしかない。
俺は、目を瞑ながら声に出してみる。
「あ、天音ちゃんは、俺の事どう思ってるの?」
「!」
言い伝えた後に目を開くと、さすがの天音ちゃんも面を喰らったみたいな顔をしていた。
「そうだなあ」
そして俺の少し前を歩く。
と思えば、俺の方を振り返って目が合った。
「好き」
「!?」
その言葉を聞いて心臓が跳ね上がる。
衝撃に耐えられなくて、軽い放心状態だ。
「……ふふっ」
「えっ」
でも天音ちゃんの顔は、いたずらっぽい小悪魔顔だった。
その顔は、俺だけに見せるいつもの顔のようで、どこか違った表情のようで。
それ一体どっちなのー!?
嘘か本当か分からず、俺は思わず叫びたくなった。
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