第15話 「好き」
「好き」
天音ちゃんの急な言葉に、心臓が跳ね上がるように鼓動が鳴る。
す、すす、好きって……好き!?
突然の事で、俺はもう何も考えれれない。
今までずっとぼっち人生だった俺が、女の子からの告白なんて。
しかも相手は
セミロングの黒髪ストレートに、天使のように可愛い顔を持ったクラスの人気者、あの天音ちゃん。
だけど、一つ気になることは。
「ふふっ」
天音ちゃんが、俺だけに見せる小悪魔な表情なこと。
この顔の時は大抵、天音ちゃんが俺をからかっている時の顔だ。
「そ、それって……!」
「んー?」
本心なのか、からかっているだけなのか、確かめたい。
聞け、聞くんだ!
ここで聞かなくてどうするんだ俺……!
「天音ちゃんの本心なの!?」
「……さあ?」
「うぐっ」
それでも天音ちゃんは表情を変えない。
「でも、一つ言いたいことはあるかな」
「え?」
正面の少し先にいた天音ちゃんはゆっくりと隣まで歩いて来る。
そうして、俺の耳元でそっと
「鈍いんだから」
その時点で、俺の心臓は限界だった。
この後は一緒に帰ったらしいけど、天音ちゃんの言葉が頭をぐるぐるしていて、何も覚えていなかった。
★
<天音視点>
「……はぁ」
胸がドキドキして苦しい。
「どうしてあんなこと言っちゃったんだろ……」
「好き」。
わたしの口は、自分でも分からないままにそう動いていた。
正直、自分でもよく分からない感情だ。
なにしろわたしは、
「……」
テスト期間、テスト本番の期間も合わせると約二週間。
わたしは奏斗君の勉強をずっと隣で見てきた。
三十番以内というのは、からかいだ。
その条件を提示した後に前回は百六十番だったことを聞いて、我ながら鬼だな~って思った。
けれどその後の奏斗君、すっごく頑張ってた。
わたしが言い出したことだし、最初は責任を持つつもりで勉強を見ていた。
「でも……」
テストが迫ってくるにつれて。
わたしはいつの間にか、頑張る奏斗君を
その気持ちに気づいたのは何日目だっただろうか。
そんな気持ちが抑えられなくて、テスト初日は奏斗君を連れて、つい二人で教室を出て行ってしまった。
クラスの子達と会話をしているより、早く奏斗君の頑張る姿を見たかった。
そしてさっき。
自分でも感情が分からないまま言葉にしてしまった「好き」。
「~~~!」
ベッドで足をバタバタさせながら、枕に顔を
今思い出したら、すっごく恥ずかしい!
それが本当の気持ちかも
「誤魔化せていたかなあ……」
自分で言うのもだけど、わたしの本性は小悪魔。
だから多分、「好き」って言ってしまった時は小悪魔な表情になっていたことだろう。
「鈍いんだから」。
そう言ったのも、なんとか思わせぶりを演じられないか、というわたしなりの誤魔化し方だ。
それで、いつものからかいだって思ってくれれば良いんだけど……。
「まあ……大丈夫か」
帰り道の奏斗君は放心状態だったし。
そのおかげで、わたしが実は動揺しているのもバレていなかったと思う。
「もう、そう思うことにしよう」
これ以上は追及のしようがない。
恥ずかしいけど、言った事を激しく後悔しているわけではない。
さっさと切り替えよう。
そう考えると、自然に体は起き上がる。
そうしていつものように、勉強机に体は向く。
「!」
けど、机の上にあった携帯に通知が来ていることに気づく。
誰だろう。
少しウキウキしながら覗いてみる。
『今日の報告をしなさい』
……はあ。なんだ、お母さんか。
今日の報告、今日がテスト最終日だって知ってるからだろう。
わたしはため息をつきながら、そっけなくメッセージを返した。
わたしの
そう思った時、
『テストお疲れ様! 自信はどう? 今回も一番取れそう?』
相手は
「……」
何を思ったのか、わたしはメッセージを返さず「通話」を押す。
彼はすぐに出てくれた。
「あ、天音ちゃん!? どうしたの急に!」
「ふふっ、別になんでもいいじゃん」
今日、自分でも分からないままに言葉にしてしまった「好き」。
案外本心だったのかもなー、とふと思った。
「それより自分の心配をしなよ。黒歴史公開の危機なんだよ?」
「それは、そうなんけど……うぅ」
要するに、わたしは好きなんだろうなあ、奏斗君の事。
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