第3話フランス料理1
今日来るお客さんは二人。
二人とも僕の大学時代の友達で一条 健司(いちじょう けんじ)君と彼の恋人の愛川 麗奈(あいかわ れな)さんだ。
健司君には同じ同業者として色々相談に乗ってもらった。
だからお礼を含めお店の感想を聞きたくて呼んだんだけど…正直不安しかない。
「今日のお客様はお二人です。僕の友達なので多少の失敗しても許してくれると…思います。」
「たわけっ!!」
コスプレ男が大声で怒る。
僕こういう大声で怒る人苦手なんだよな。
アルバイトしても怒鳴る人がいると委縮してしまう。
「すみません…。」
このコスプレ男が何に怒っているのか、僕が何に謝っているのかわからない。
体が声が勝手に反応してしまう。
「よいか、お前の知り合いだろうが何だろうが客は客。もてなす側に失礼があってはならぬ。故に失敗は許さぬ。」
「さようですな。」
コスプレ男の言葉におじいちゃんが納得する。
それに続き眼帯おじさんが話始める。
「一度の失態が国を滅ぼす時もある。」
さすが眼帯おじさん言う事が大袈裟だ。
いかにも中二病がいいそうなセリフ。
「くにって…。ははは…。」
僕が苦笑いして話を流してしまおうとすると、眼帯おじさんの目が鈍く光る。
その雰囲気に圧倒され、笑えなくなってしまう。
「それはこの店にも言えること。」
僕は口にたまった唾をごくりと飲み込む。
「だが、それは逆もしかり。成功すれば得られるものは多い。」
眼帯おじさんが歯を見せて笑う。
また雰囲気が変わりさっきと同じ雰囲気になった。
何なんだこの人?
でも要するに…
「わかりました。絶対に成功させます!」
「ふん、当たり前だ。」
本当に偉そうだな…このコスプレ男。
でも何だかちょとワクワクして来た僕がいた。
この人達といると頑張ろうって思ってしまう事が不思議だった。
「わっぱ、で何を作ればよい?政宗とわしとでその南蛮料理作ってみせようではないか。のう?」
「はい。」
「フランス料理です…。えっと今日のメニューは…。」
メニューを持って来て確認してみる。
「最初は(お通し)アミューズ、前菜はアボカドとサーモンのムース、スープはミネストローネ、魚介料理は真鯛のポワレ、口直しのソルベ、肉料理は牛ロースステーキ、デザートはガトーショコラですね。」
「「………。」」
黙り込む二人。
「作れます…?」
嫌な予感がする。
中二おやじが力強く答えた。
「わからん!」
そう言うと思ってたよ。
続いておじいちゃんも想像通りの答えだった。
「おぬしが何を言っているかさっぱりだ。分かるように話せ。」
「心が折れそう…。ちなみに何処からですか?」
「最初はあっあ…何とかからじゃ。」
じゃあ、今のメニューの意味を全く分からず聞いてたって事になる。
「アミューズって言うのは最初に出て来る軽く食べれるような料理です。これからの料理を楽しませるようにするものです。ちなみにこんな感じのものです。」
僕は本に載ってあったアミューズを皆に見せた。
本を興味深そうに眼帯おじさんが見る。
「串に色々な食材がささっておるな。加工されているものも…。うむこれがアミューズか。他のものもある…白い!!」
「はははは、さすが政宗。お主も好きよのう。」
盛り上がっている二人を置いて説明していく。
「次は前菜で出すアボカドとサーモンのムースです。」
「あぼ…??」
「えっ!?もしかしてアボカドも分からないんですか!…はぁ、移動しましょう。食材は見たほうが早いので…。」
まさかアボカドも知らないとは思わなかった。
オープンまでに間に合うか不安が押し寄せてくるのを抑え、厨房に移動した。
「いいですか。これがアボカドです。」
アボカドを三人の前に置いた。
三人は一人一人アボカドに触り、匂いを嗅いだり揉んだりしている。
「世の中にはこんな食材もあるのか。やはり面白い!調理するのが楽しみだ。どれ一つ。」
「ちょっと!丸かじりしないで!!」
「食材の味を知らぬことには料理出来ぬではないか。」
一人盛り上がり、丸かじりしようとする眼帯おじさん。
「黒いし、柔らかいぞ。腐っておるのではないか。」
「食べれますから。ってちょっと勝手に捨てないで!!」
アボカドを揉み、捨てようとするおじいちゃん。
「ふむ…。」
髭を触りながらアボカドと見つめ合うコスプレ男。
一つの食材でこんなに時間を取ってたらオープンの時間になってしまう。
「あのっ!時間が無いので説明しちゃいますよ!サーモンって言うのはこの魚です。」
「鮭か。立派だな。」
「鮭じゃな。」
あれ?サーモンの事は知ってるの?
不思議に思っているとコスプレ男に怒られた。
「…時間がないのであろう。呆けてないでさっさと説明しろっ!」
そんなの僕が一番わかっている。
そんな事を思いつつ説明の続きをする。
「このサーモンとアボカドをムースにして…。ムースって言うのは魚介や野菜をなめらかにして、生クリームや卵白で焼き固めたものです。」
「「生クルーム???」」
「………。生クリームって言うのはー」
こうして僕はほぼ全部の材料の説明をする羽目になり、説明する頃には息を切らしていた。
「つ…つ疲れた~。おわかりいただけたでしょうか。」
「まぁ、何となくはな。」
「どうにかなるじゃろ。」
「ふむ、どんなものかはわかった。」
何とか今から作ってくれる料理はわかってくれたみたいだ。
だが眼帯おじさんのテンションがさっきより低い。
「どうかしました?どこかわからない事でもありましたか?」
「………。店主よ、材料が足りぬのではないか?」
僕はその言葉に耳を疑った。
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