第四章 愛が見えない 8

 帰りのホームルームが終わる前に、雫は無遠慮に下級生のクラスに入ってくると、真尋の席の前に立ち、「はい、はーい。こんにちは。白河さん、もう、生徒会の手伝いに来なくていいからね」と告げた。

「なんでですか?」

 今日もトレーニングをサボる言い訳に使おうとしていた真尋にとって、急に予定が空くのは喜ばしいものではなかった。

「あ、あの。ワタクシ、頑張ります」

「う~んと、思ってたよりできない子みたいだし、あのね、今のままだとはっきり言って、邪魔なの」

 雫の笑顔だけれど、はっきりとした拒絶の言葉に真尋はなにも言い返せなくなる。

「私は忙しいから、もう行くね。じゃーね!」

 雫は相手の反応を気にすることなく、去っていく。真尋は悲しくなる気持ちを抑えて、帰り支度を始めた。

 クラスの男子はここぞとばかりに予定のなくなった真尋を遊びに誘うが、真尋は無表情に断る。

「白河さんは人気者だね~」

「白河さんみたいな子をなんていうんだっけ? あっ、美少女っていうんだっけ?」

「すごいね~。ソンケーしちゃうよ~」

 その光景を横目で見ているクラスメートはクスクス笑いながら言っていた。

 当然、その言葉の中に羨望や称賛といった意味はない。侮蔑や嫌味を含んでいることを真尋はわかっているし、彼女らも隠す気はないだろう。だからといって、いちいち突っかかっていては時間の無駄だと無視をするのだが、それも彼女たちの癇に障る。

 当たり障りなくやりすごす知恵はまだ持てていないし、敵意を守ってくれるナイトももういない。

「………」

 真尋は悔しい気持ちを食いしばって、口から言葉が出る前に足早に教室から出ていった。クラスメートの視線が怖い。伊織とはもう気軽に話せなければ、雫にも見限られて、省吾は離れてしまった。

 ふさぎ込むように家に走ったものだから、真尋は直後に起こった教室でのできごとを知る由はない。

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