第二章 テストよりも大事な数字がそこにはある 4

 翌朝、全生徒が各々の教室で朝のホームルームを受けていると、『はいは~い、みなさん、おはようございます。生徒会長の朝倉雫です』という、楽しそうな声がスピーカーから響く。

『今のホームルーム中に本年度の行事予定が配られていますよね。本年度も体育祭に文化祭、クリスマスパーティに各種学年行事と、イベント盛りだくさんで皆さん、ワクワクしてますよね? 私たち、生徒会一同も皆さんの思い出に一役買えるように頑張っていきます』

 雫は殊勝な言葉を並べるが、そんな連絡だけで、この放送が終わるなど、二三年生はもちろん、新入生でさえ思っていない。

『ただ、ただですよ。七月、夏休みに入る直前だというのに、イベントが期末試験と終業式だけっていうのは、ちょっと、いえ、すっごく盛り上がりに欠けると思いませんか?』

 全校生徒は配られたプリントに目を通す。たしかに七月は他の月に比べても行事予定が少なかった。

『なので、ここに、一つのイベントを追加しようと思います。そのイベントは~』

 雫の合図により、スピーカーからはドラムロールが鳴り響く。生徒たちは自分たちの予定を狂わせる一言を、固唾を飲んで待った。

 ドラムロールの音が止み、一瞬の沈黙の後、『ドキッ、現役高校生の水泳大会。CEROZかもよ。を開催します』と、発表された。

『このイベントは、競泳に水上騎馬戦、水球を種目とするプールで行う体育祭みたいなものです。もちろん、全員水着着用ですので、女の子だけでなく、男の子も見られてもいい身体づくりをして下さいね』

 雫は茶目っ気たっぷりに概要を説明するが、生徒たちの反応はあまり芳しいものではない。陽ノ宮学園は仮にも進学校であるので、試験で赤点を取ろうものなら問答無用で夏休みを潰される。勉強に追われた直後に水着になれる準備なんてできるはずがないと思った。

『おい、朝倉。なに勝手なことを言ってるんだ!』

 生徒の心を代弁する声がスピーカーを通して聞こえてきたが、雫は気にする様子がない。

『なに言ってるって、青春の一ページを追加するただの好意だけれど。それに、私は勉強だけ、遊びだけを頑張るのって好きじゃないの。あ、そうね、試験で赤点の子は女子ならビキニ、男子ならブーメランパンツっていうことにしたら楽しくない? うん、楽しそうね。これ、決定』

 雫の中で勝手に概要は煮詰まっていく。

『だから、そういう独裁者的な進め方は止めろといつも言ってるだろうが。もっと、生徒の意見も聞きつつだな』

『なに言ってるの。木村くんだって女の子の水着が見れて嬉しいでしょ? 女の子は意中の男の子を悩殺、木村くんみたいなモテない男の子には女子高生の水着姿で潤いを。ほら、尊重してるじゃない』

『男の誰もが水着で喜ぶと思うなよ。俺を喜ばせたかったら、着衣水泳も種目に入れてもらおうか』

『……残念な子』

 その言葉を最後に放送は終わった。密かに期待はしていたが、やはり木村では雫を止めることはできなかった。いや、この学園の生徒、誰であっても彼女を止めることはできないと全員が知っていた。

 新入生はサボればいいだけだ。という呟きがところどころで聞こえたが、あと一か月もすればそんな言葉は言えなくなるだろう。

 朝倉雫はやるといったらやる。だったら、素直に受け入れて、楽しんだ方がましだ、と考えるようになるだろう。

「………」

 まだ、学園のことをあまり知らない一年生の中で、白河真尋だけは、人知れず、申し訳ない気持ちで一杯になった。

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