第58話 ビリビリにて


(・・・・野郎のテリトリー内ではやはり分が悪かったか)


 薄暗い地下の牢獄にて、一刀は身動き取れない状態にされていた。


 とはいえ別に鎖に繋がられている訳ではない。

 ただ全身が濡れて、濡れた身体にヤバいほどの電気が流れているだけだ。


 電気で焼け焦げた肉やら神経やらはすぐに回復するのだが、俺の意志とは反して筋肉が可笑しな方向に動いてしまい、立ち上がるのもままならない。

 身体をこういう風に動かしたいと脳へ電気信号を送るのだが、その電気信号をマジな電気で阻害してきやがる。


 おかげでただ寝転がっているだけでも全身の筋肉が雑巾絞りされているかのようにブチブチと切られていくぞ。

 まぁ、切られてもさっさと治るので全く問題ないが。


 そして治ったところからまたヘンな方向にねじ切られて動けないんだがな。


 ほんと俺の事をよくわかってる。


「・・・・一刀や」


 さてさてどうにかしてこの状況に適応しねぇとなぁと考えていると、俺が落ちて来た穴から艶魅プカプカと降りてきた。


「な、に、し、に、き、や、が、っ、た」


 電気を流され続けているせいで、言葉がスムーズに話せず、違う国の言葉を話している気分になるな。


「・・・一刀や。何故に人の血肉を求めた。主は異形のモノに心を奪われ、その身を異形のモノに落としてしまったのかえ?」


「・・ぷっ、だ、は、は、は、は、は、は、は、は、は、っ!」


 何を聞くかと思えば可笑しなことを聞いてきやがった。


「笑い事ではない! 主が! 主が異形のモノに身を落してしまったのであれば、妾達は・・・」


「は、は、は、は、は、っ! な、め、ん、な! ボ、ケ、ナ、ス!」


 あのよくわからない謎生物にこの俺が身を落したと、下ったとコイツは言いたいのか?

 あんな人でもないよくわからない生物に、俺が首を垂れたとでも思っているのか?

 ホントふざけんな。

 マジで、この俺を舐めてんじゃねぇ。


「ひ、と、で、あ、る、こ、と。そ、れ、は、お、れ、の、ほ、こ、り、だ」


 死なぬ身体であろうとも、化け物じみた力を得ようとも俺は人であり、人である誇りを俺は持っている。

 残虐な殺人犯になろうが、犯罪者になろうが、復讐者になろうが、俺は人だ。

 人の心がないとか、化け物だとか、クズ野郎だとか思われようが、俺は人だ。

 どんな力を得ようとも、何度破壊されようとも、この人の身体を持ち続けていることが俺の誇りだ。


 その誇りを捨てる訳がねぇだろうがよ。


「お、れ、が、い、ぎょ、う、の、も、の、に、み、え、た、か? た、か、だ、か、て、めぇ、ら、の、ち、に、く、を、も、と、め、た、く、ら、い、で、ば、け、も、の、に、な、っ、た、と、で、も、お、も、っ、た、か?」


 全くもって気にいらねぇ。

 俺の力が、ただ身体が再生するだけの不死と言う能力と思っているのが気にいらねぇ。

 ただ再生する程度で終わる訳がないだろ。

 この俺の力は、人間ってのは、進化していくもんなんだよ。


「な、め、る、な。ボ、ケ・・カスッ!」


 毒で苦しみ死んで、痛みで苦しみ死んで、苦しんで苦しんで痛みしかない世界で死に続けて、何度も頭がおかしくなるほどの激痛を味わおうが、進化できる、強くなれるってことを知っているってのに、誰が人であることを捨てるかよ。

 ホントに何もわかってねぇぜ。


「いいか、艶魅。俺は、人だ! 異形、として、見るの、は、勝手、だが、俺を! あの! クソ野郎と! 一緒に! すんじゃ! ねぇぇぇぇぇぇっ! ぐぅぅうぅぅおっらぁぁぁっ! やっと、なれてきたぞ、こんにゃ、ろう!」


 ほら見ろ、人ってのはこうも容易く進化できる。

 数百回と死ぬだけで、身体が電気に耐性を身に着け始めた。

 死に続ける事には変わりはしないが、少しだけ身体を動かせるようになり、まともに会話がでいるようになった。

 やっぱり最高だぜ。

 人間の身体はよぉ。

 テメェだけの力で自己進化もできねぇ異形の身体なんかとは比べ物にならねぇぜ。


「なれば一刀は未だに人であると申すのか? 人の血肉が食いたいと言っておいて」


「人の血肉! なんざ! 食いたくねぇ! わボケェ! 俺が欲している! のは! 力を持つ! 四家の血肉! だ! 奴等の力! この身に蓄え! 俺の力へと! 変えるつもり! だった! だが! だはははっ! それも必要! ねぇ! 俺は俺の! この力だけで! 良かったんだ!」


 手合わせして見てわかった。

 確かに奴等の力は脅威であり、便利だと思う部分はある。

 だがそれだけだ。

 合って困ることはないが、無ければ無いでどうってことない程度の力。

 そう俺は認識した。


「うおらぁぁっ! よし、やっと起き上が、れるようになったぎぐっ!? ぐおぉぉぉぉっ!?」


「主は先程から何をやっとんのじゃ! 妾は真面目な話をしている最中なのじゃぞ!」


「見りゃあ! わかるだろが! こちとら電撃に、耐性をつけよと、してんだろうが!」


 コイツの目は節穴か何かか?

 どこからどう見ても電撃に耐性を付ける為に抗っているのは見ればわかるだろうが。


「のじゃ?・・・・・・・そ、そうじゃったな。うむ、今一刀はでんげきとやらに耐えているのであったな。うむ、頑張るのじゃぞ」


「・・・あん?」


 何ともおかしなことを言う艶魅。

 まるでこちらの姿が見えていない・・・いや、これは。


「・・・・・おい、艶魅。正面の壁にボタンがあるだろ。何色かわかるか?」


「の、のじゃ?・・・・・・え、江戸茶色じゃ!」


「鉄格子だバーカ」


「うじゃ!? 騙したな一刀!」


「騙すもクソも、あるかボケ。つかテメェ、何でいきなり、物が見えなく、なった」


「それは主のせいであろうが!」


「ああん?」


 何故俺のせいにされなければいかんのかわかん。

 何もしてないだろうが。


「一刀が封印を解いたせいで妾が力を使う羽目になったのじゃぞ! おかげで現世の物が見えずらくなってきておるのじゃ!」


「なんだ。ただの老眼、か」


「ちゃうはボケェ!」


 ゲシリと蹴りを入れてくる艶魅。

 つか今の俺は感電している最中だってのに、艶魅は何も感じないのな。


 触覚はあるくせに、己にマイナスな物質は感じないようになっているみたいだ。

 酒や刺激の強い食べ物なんかは感じる癖に、何故火などの人体に影響を及ぼす物質には触れないのか・・・。


「まったく、意味のわからねぇ、悪霊だぜ」


 ホントここには不思議なことばかりが起こりやがる。

 だから、さっさと壊さないといけない。


 艶魅のような可笑しな奴がいるこの地を

 俺達のような超人が現れるこの地を


 壊しに行かなければならない。


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