第56話 奇妙で不気味な報酬


「ガツガツガツガツ・・・・・・・・・・・・ガシャン!!」


 それから1時間後。

 未だに食事途中であったのだが、一刀は行き成り目の前食器類を蹴り上げた。

 作って貰った者への感謝など、そこには無い。

 だがそれでも、周りの侍女達は文句を言うことはなくてきぱきと片付けていた。


 更に言うならば、蹴り上げたことで一刀の服に汚れが付着してしまったことを気にして、汚れを拭い取ろうとしている者までいる。

 勿論、侍女達に触れられたくもない一刀は、遠慮も躊躇もすることなく蹴飛ばしているが。


「貴様のオモチャをどうしようとも構わぬが、無意味に壊すことだけはするでないぞ」


「こんなクソキモい女共なんざいるか。それよかいい加減こんなくだらねぇ儀式は終わりにしろ。話をする条件ってことで付き合ってやったがいつまで続けるつもりだ」


「貴様の限界が来るまで続けるつもりであったぞ。儂は今のお前にかなり興味があるからな」


 ヘドロのような粘っこい視線を向ける文才。

 なんとも久しぶりに見たな。

 人を実験動物のように向ける目をよぉ。


「興味か・・・・ふっ、そんなに死なぬからだが欲しいか? そんなにも死が怖いか?」


「ああ怖い。死ぬことで神木神様をお守りできなくなることが、儂と言う強き者がいなくなった後の世が荒れることが怖い」


「ウゼェ事ほざいてやがるな」


 まるでお前がいなけりゃこの世界は終わりだと言いたげだ。

 あまりにも傲慢だな。


「まぁいい。そんなことを話しに来たんじゃねぇ」


 ぶちまけた食器類の片付けも終わったのを見計らってか、一刀は足を崩し、見下すような目つきで文才に視線を向ける。


「俺が異形の王とやらを殺したのは知っているな?」


「神月家の邪気が減り、その原因が封じ込められし異形の王の消失であることはこちらでも確認しているが、貴様が殺したかは知らぬ。」


「知らぬか・・・・・その程度の情報収集能力しかねぇのかよ。ここの奴等は無能揃いか?クソ野郎をぶっ殺して数日たっているってのによぉ」


「誰が倒したかなどどうでも良いことだ。大事なのは異形の王が排除されているか、なのだからな。それとも褒めて欲しいのか?」


「そうだな褒めてもらおうか。よくやった・・てな」


 なにが面白いのか、クツクツと笑みを浮かべる一刀。

 今までの一刀ならば、文才の言動に食って掛かる所であるのだが、今はそんな軽口も許せてしまう程上機嫌のようだ。


「そして褒めるなら褒美を寄越せ」


「なんだ。何を仰々しく訪れたと思えば、ただ小遣いをねだりに来ただけか。くだらん・・・まあくだらぬが、良かろう。何が欲しい。金か? 女か? 土地か? 奴隷か? 地位か? それとも儂の命か?」


 そんなもの問うまでもないだろう。

 どうせ、文才の命を欲する。

 そう、誰もが思っていたのだが、


「四家共の血肉を俺に食わせろ」


「・・・なに?」


 ここにいる全ての者達の予想とは反する願いを口にするのだった。



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