第52話 布が落ちてるぅ
「こっちじゃこっち! 眞銀! 早くするのじゃ!」
「ま、まって、まって、くだ、さい」
艶魅に呼ばれて眞銀は楓の元へと駆けていた。
とはいえ運動能力が超人と言う訳ではない眞銀。
流石に1キロ以上全力疾走させられては息が上がり、へとへとになると言うモノである。
「ほらこっちじゃ! こっちの方が近道なのじゃ!」
「そ、そこは、みちじゃ、ない、です、って」
更に言えば艶魅はフヨフヨと空を飛びながら、障害物など無視できるためただひたすらに真っ直ぐ案内しようとしてくる。
距離的には最短であるのは間違いないのだが、付いて行く側からすればたまったモノではなかった。
そんな感じで眞銀は楓がいる影宮家へとたどり着いた。
「ほれ頑張るのじゃ! 大馬鹿一刀を止めるのじゃ!」
「はぁはぁはぁはぁ、ちょっと、まって、ちょっと、きゅうけ、きゅうけい・・・」
「さぁさぁ! ゆくぞ眞銀! 妾をバカにした一刀をぎやぁぁぁぁ・・あふん!? と言わせてやるのじゃ!」
「だからちょっと、ほんと、ちょっと、まって、まってくださ、げほげほっ!」
眞銀は涙目になりながら訴えるも、艶魅は聞いてくれず急かしてくる。
なので仕方なく眞銀は影宮家にお邪魔することにした。
「す、す・・すぅ~、ふぅ~、すぅ~・・・すみませ~ん! 神月眞銀です~! どなたかいらっしゃいませんか~?・・はぁふぅ」
玄関先で息を整えながら声をかける眞銀。
今にも「さ~月ちゃ~~~ん!」などと叫びそうだ。
「ふぅふぅ、誰も、出てこないです」
「そんなのええからさっさと行くのじゃよ」
「ですけど神木神様。他人の家に勝手に入るのは流石に失礼ですよ・・・」
「何を今更遠慮しておるのじゃ。よく大人達の目を掻い潜っては、楓を遊びに連れ回していたではないか。何度妾が主の身体を借りて皆を諫めたことか」
成長した今では考えられないと思うが、昔の眞銀はやんちゃな子供であった。
お外で遊ぶのが大好きで、探検するのが大好きな子供であった。
逆に楓は物静かな子で、家の中で絵本や漫画本、忍術書などを読むのが好きな子で、あまり運動は好きでは無かった。
「そ、それは、子供の時の話じゃないですか!」
「ほんの数年前の話じゃろうに。いや~あの時は皆を諫めるのに難儀したのじゃ。まさか徒歩でディボニーランドに行こうなどとは皆思いもよらなんだ。丁度時雨がディボニーランドの帰りに拾って来たから良かったものの。あの時は妾も含めて皆の肝が冷えたのじゃ」
「だからそれは昔の話です! そ、それより今は楓! そう楓の所に行きましょ! そこに一刀さんが。そう一刀さんがいるんですよね! 止めに行くんですよね!」
「おぉ! そうであったな! さっさと行くとしよう。と、その前に・・・・・・眞銀や。護衛の者達に隠れていないで、すぐ傍で己を守る様に指示を出しなさい」
「え? 指示、ですか?」
自分の周りに護衛が隠れながら付いているのはなんとなく予想できたが、できれば呼びだしたくなかった。
「うむ。流石に前回のアレを見せられて、このまま無防備に一刀のもとに連れて行く訳にも行くまいて。いくら妾が付いているとはいえ、他の保険は必要じゃ。故にちゃんと指示を出しなさい。一刀が襲い掛かってきた時に己を守る様に、そして遠慮をせぬようにとはっきり伝えなさい」
「・・・・はい」
艶魅の雰囲気が変わったことで、眞銀は仕方なく頷き、隠れながらも己を護衛してくれているで人達に声をかけた。
すると周りの影が揺らぎ、何処からともなく護衛の者達が片膝をついて現れた。
総勢18人が眞銀に首を垂れていた。
「・・・・・・・・」
圧巻な光景ではあるが、眞銀は少し不機嫌そうに顔をしかめていた。
(こういうの嫌いだって言ってるのに、何でやめてくれないんだろう)
己は偉い。
この街では神月家の巫女と言うのはかなり偉い。
それはわかっているのだが、どうにも己より年上の大人達が頭を下げるのは、落ち着かなかった。
「さて、それでは行くかのぉ。皆の者! ついてまいれ!」
ずんずんと、ではなくフヨフヨと漂いながら先導する艶魅。
その姿も声も眞銀以外届いていないのだが、本人は気にすることはなかった。
そうして、楓と一刀がいる部屋へと着いた艶魅達であったが、
「待たせたの一刀! これから主をぎゃふんのちょめちょめのあふんの刑にしてやるからの! 覚悟するが・・・・・のじゃ~?」
「・・・誰もいませんね」
辿り着いた部屋には争ったあれども、そこには楓の姿は無く、ただ一刀が身に付けていたボロボロに破れた病院服だけが落ちていた。
「の、の、のじゃぁぁぁぁっ!? こ、こ、これは、一刀が唯一身に纏っていた布(病院服)ではないか!? これがここにあると言うことは・・・・楓め。ついにやりおったな。グッチョブなのじゃよ!」
「や、やりおった?」
「うむ! 楓は一足早く大人の階段を上ったと言うわけじゃ! しかし、流石影宮家次期当主の楓じゃ。あの若さで男を誘惑するすべを身に付けていたか。小さきおっぱいというはんでぃ~を抱えながらも、男を誘い、誑し込むとは、流石サキョウバシ楓じゃ! これは下手すると、今年中に赤子をこさえた報告がされるかも知らんねぇ」
「あ、あああああ、あかご!? か、かえでったら、すごすぎるよぉっ!!」
そしてヘンな誤解をされることになったが。
まぁ、その誤解を放っておいてもそこまで害はないので問題ないだろう。
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