第51話 お仲間を募ってみた?
「よぉ。半端者。俺を探しているみたいだったから来てやったぜ。ついでにちょっとだけ話をしようや」
俺は咲の隠れアジト? から出ると、そのまま楓がいるであろう影宮家に向かった。
勿論途中楓の指揮下にいるであろう駒にちょっかい掛けられたが、能力が強化された俺を止められる者などいなかった。
切られようが、突かれようが、捕縛されようが、人の力だけで今の俺を止められるわけもない。
「・・・・のう、一刀や。楓の所に来たのはええとしても、来る前にちゃんとした服に着替えてくるべきでは無かったのかえ?」
「・・・・・・そうだな」
異形の王の胃袋の中で全裸状態が普通だったため、違和感を感じなくなっていたが、今の俺の姿は、咲のアジトでいつの間にか着せられていた病院服の姿だ。
しかも襲い掛かってきた駒共の相手をしたせいで、ギリギリ下半身が隠れている程度・・・・・さっきぶん殴った駒共からズボンの一つでも引っぺがしてくりゃあよかったぜ。
股がスースーしやがる。
「・・・変態」
「欲求不満を俺にぶつけたくて捕まえに来る淫乱娘に変態呼ばわりはされたくねぇな」
「誰が好き好んで貴方なんかとっ!!」
「お家のために股開くことを決心したんだろ? だったら俺に少しでも気にいられるために可愛く媚びでも売ってみろよ。容姿以外取り柄のねぇ女の癖してよぉ」
怒りなのか恥じらいなのか知らないが顔を真っ赤にしては睨みつけてくる楓。
遠回しにプロポーションが残念だと言うことが伝わったのだろう。
「おぉ!? 良かったの楓! 一刀にとって、楓の容姿はグッチョブじゃと! 誇ってよいぞ!」
「・・・神木神様。それは容姿以外私に女の魅力がないと言うことですか?」
「のじゃ!? そ、そそそんなことは言っておらぬであああろう! ヘンな勘違いをする出ないのじゃよ!」
ぴ~ひゅひ~と気の抜けた口笛もどきを吹く艶魅。
また話を逸らしにかかっているようだ。
「艶魅。お前は少し黙ってろ。お前がしゃしゃり出てくると話が進まねぇ」
「な、なんじゃと! まるで妾を邪魔者の様に言いおってからに! まだ話のはの字もしてないではないか!」
「今からするところだボケ。つかいつもいつも邪魔してんだろ。いいからお前は黙ってろ。じゃねぇと冗談抜きで・・・この女を殺すぞ」
「のじゃ!? そんなことはさせぬからな!」
んば! と両手を広げて、うがうが吠え出す艶魅。
そう言うふざけた行動一つ一つが、話をはぐらかす為のパフォーマンスであるのはイヤでもわかる。
「おい、神月家の娘という器のない今のお前に、俺が止められるか? できねぇだろ。わかったら邪魔するんじゃねぇ」
「そ、そんな事無いのじゃ! それくらい夜食前なのじゃ!」
夜食ではなく朝飯前なと思いつつも、ツッコミを入れることはなく、コキリと手首を鳴らす。
「そうか、なら騒ぐがいい。忠告はしたが、聞き入れないなら影宮家の血が今日途絶えると知れ。言っておくが俺はマジだぞ」
「ぐ、ぐぬぅ」
本気だと言うことが嫌でもわかり、艶魅は悔しそうに黙り込むと逃げるように外へと出て行った。
恐らく今までのように、お茶を濁すことができなくなった故に眞銀を呼びに行ったのだろう。
眞銀さえいれば俺が襲い掛かったときに止められると思い。
「さて、邪魔者は消えたな。つうことで影宮の娘・・・少しばかり話をしようや」
「話? 今更貴方と話すことなどありません!」
カンッ! と床を叩くと、それを合図に天井から網が投げられた。
ついでに楓の護衛達が天井や壁から姿を現す。
投網で拘束された俺を、即座に捕らえるつもり満々だな。
「えげつない投網を用意したもんだな」
覆いかぶさる投網に視線を向けてみれば、網の一本一本に、返しの付いた釣り針のようなモノがついている。
安易に動けばその針が肌を突き破り肉に引っ掛る事だろう。
まぁそれくらいならなんてことない。
ちと痛みを覚える程度だ。
だが、俺の捕縛を決めた影宮家がその程度の道具を用意するわけもない。
よく見れば釣り針の一本一本に何かが塗られていた。
恐らく麻痺毒とかそういう類が塗られているのだろう。
毒を使うのは流石忍者といったところか。
これでは手も足も出ぬままに捕らえられていただろう。
まぁそれも
「ここに来たばかりなら脅威だったろうな」
能力が強化される前までの話である。
片手で身体に纏わりつく網を掴むと、加減をすることなく思い切り真横に引っ張り上げた。
ガリガリガリと刃が俺の肌を削り、網も俺の髪や纏わりつき、髪や耳や肌を削っていくが、その程度の痛みで止まることはなく、人外じみた力で引き剥がし、振り回した。
一刀の周りを囲んでいた護衛達の多くは、振り回す網に絡まっていく。
そして傷は・・・・・進化した一刀の能力によって瞬く間に傷は治り、血すら流れることはなかった。
「なっ!?」
常人離れした怪力を目の当たりにしてか、それとも傷一つ負わない一刀を見てか、楓は驚き固まる。
一瞬、そう、一瞬だけ思考が驚愕と言う単語に染まる。
その一瞬の思考停止状態が、今の一刀にとってどれほどの隙になるのかも知らずに。
トッ ベキキキキッ!
軽い音が発せられたと思ったら、一刀が先程まで立っていた床が抉れた。
まるで何か重い物を引きずったような、獣が引っ掻いた跡のように。
「敵を前にして思考を止めるな。未熟者」
そして気が付けば一刀は楓の背後を取っており、楓の首に指を添えていた。
ごくりと、喉を鳴らす楓。
ただ指を添えられているだけだと言うのに、なぜかナイフを首元に突きつけられている感じがする。
「・・・・・・殺すなら・・・殺しなさい」
「数日見ない間に気丈な振る舞いができるようなったじゃないか。まぁ僅かに身体が震えている時点でまだまだだが」
「・・・黙れ」
背後からでは顔を見ることができないが、恐らく物凄く怒り狂った顔になっている事だろう。
普通の奴が怒るより、容姿の整った女が怒る方がスゲェ怖く感じるんだよな。
そう感じるのはギャップの差なのだろう。
「そういきり立つな。今回俺は殺しに来たわけじゃない。少しばかり話をしに来ただけだ」
「はなケホッ!?」
楓は言葉を発した瞬間、一刀は軽く楓の脇腹を蹴り叩き黙らせる。
「誰が話していいと言った。今俺が話している所だろ?」
話をしに来たとは言っているが、どうやら一刀は対話をしに来たわけではないようだ。
疑問を口にする事さえ許しはしない。
「おい宮塚家の次期当主。楓様にそれ以上の狼藉を働くならば、こちらとて黙っては「それ以上口を挟めばコイツを殺す」・・・・」
そしてそれは周りの護衛達にも対しても同じであった。
俺の話を遮れば楓を殺す。
俺の言葉以外が今この場で発せられても楓を殺す。
全員が全員ただ俺の話だけを聞けと言わんばかりに、横暴な態度をとる。
そんな態度に普通は頷けないが、そうせざる負えない状況の為、護衛達は渋々口を噤みながら、この状況を打破するために機会を伺うことにした。
「さて、話の続きだ。まずはそうだな・・・この状況を見てお前も少しは理解しただろ。お前が弱いと言うことが」
「・・・・・・・・・」
「お前は確かに影宮家次期当主としての地位を得ている。
幻覚を見せると言う特殊な力も得ている。
それなりに訓練をし、努力しているが故に、お前に付き従う者達もいる。
そして親も他の家の者達も真面目なお前には好意的だ。
だがそれだけだ。
お前には絶対的な力と言うモノが無い。
どれだけ努力しようとも絶対的な力と言うのを得られない。
それが影の者。
それがお前達影宮であり、汚れ仕事のみを請け負う影である」
「・・・・・・・・・・」
「にもかかわらず、影であるべきお前達が主人を差し置いて動いた。
これがお前の敗因だ。
要するにでしゃばるなってことだな」
無言ではあるが楓の気配が変わったことを感じた。
今にも怒りに任せて襲い掛かってきそうだ。
「まぁ、それはいい。
たまに影も主役になりたい時くらいあろうからな。
これに関して責めるつもりはねぇ」
もしも理性を無くして襲い掛かってくるのならば、それはそれで面白いのだが、生真面目なコイツはそこまで落ちてはくれない。
そしてこの状況で暴れた所で、なんの意味もならないことくらい頭のいい楓ならば理解しているだろう。
「ではそろそろ、ここに来た目的を話してやろう。といっても俺の話に賛同しないのであれば・・・まぁ殺しはしない。少々痛い目に合ってはあってもらうがな」
話し合いと言う名の脅迫。
元々一刀は己の言いたいことだけを言いに来ただけで、楓達の意見など聞く気は毛頭なかった。
ただ己の意見を述べ、それを押し通すために来たのだ。
「これからお前等を俺の手駒として使ってやる。ありがたいだろ? 嬉しいだろ? お前等日陰者を俺の道具として使ってやるって言ってんだ。首を垂れて千歓万悦してみろよ」
そしてそんな横暴で屈辱的な命令が発せられるのだった。
「し・・ねっ!」
勿論そんな命令に楓が従う訳もなく、楓は己が死ぬかもしれないと言う恐怖を抱きながらも、袖の下からクナイを取り出し一刀に襲い掛かり、周りの護衛達も楓に続くように襲い掛かるのだった。
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