第46話 一刀を探して


「まったく、一刀の奴は何処に行ったのやら」


 ふよふよと宙を漂いながら、艶魅は森を漂う。


 一刀が行方不明になって早七日。

 不死身である一刀は、何処にいようとも死なぬと言うことは確定しているが、流石にこうも見つからないと心配になる。

 崖や岩の切れ目にでも落ちて身動き取れずにいるのやもしれぬと考えてしまうのじゃ。


 それに心優しい眞銀が物凄く心配しておったからな。

 お腹を空かせてないかとか、何か困っているんじゃないかと、己を殺そうとした一刀に対してやきもきしておった。

 妾が探しに行くと言わなんだったら、一人であちこち探し回っていたじゃろう。


「どこじゃ~、いっとう~。隠れとらんで、でてくりゃれよ~。ぬ? ポク達ではないか。丁度良い。ポク達なら一刀がどこにおるかわかるやもしれぬ」


 ふよふよ漂っていると、食べ物を探しているタヌキ達を見つけ、艶魅は近寄る。


「お~い! ポク達!」


 空から行き成り近寄ってきた艶魅にポク達は一瞬驚いたが、すぐにそれが顔見知りの存在であるとわかり、フリフリと尻尾を揺らしながら ヨッ! と言うように、片手を上げる。


「うむ! こんにちはなのじゃ! それでのポク達。妾は一刀を探しておるのじゃよ。見ておらんか?」


「「「「「・・・・・・・・・」」」」」


 艶魅の問いかけに、ポク達は内緒話をするように円を組みだす。

 可愛いお尻と尻尾をフリフリと揺らしながら。

 そして、内緒話が終わると、ビシッ! とそれぞれがあっちに一刀はいるよ! と言わんばかりに指さした。


「・・・主等ふざけておるな?」


 全く一貫性のない先を示すポク達。

 森を指さしたり、街を指さしたり、己の尻尾を指差したり、はたまた母タヌキのお腹をツンツンつついたりしている。

 母親タヌキのお腹をツンツンつついて子タヌキは、ペシンと頭を叩かれているが、そこは気にしてはいけない。

 最近一刀からご飯をいっぱい貰って太り気味になってきているのだが、気にしてはいけない。

 母タヌキだって太ったことを気にしないようにしているのだから。


「ふざけとらんでちゃんと教えてくりゃれ。一刀が行方不明になってもう五日も立っておるのじゃ。心配なのじゃよ」


「「「「「・・・・・・・・・」」」」」


 真面目な雰囲気で問いかけてくる艶魅に流石のポク達も察したのか、再度円陣を組みこそこそ内緒話をすると、皆コクリと小さく頷き真面目な顔付きで艶魅をみる。

 そして


ビシッ!!

ペシペシペシペシペシ! ガリッ!


 全員が全員母タヌキのお腹を指差した。

 若干最後の効果音が可笑しかったのは、父タヌキが引っ掛かれた音である。

 子供のおふざけならいざ許せるが、父親の悪乗りは許せないと言った感じだろう。


「こりゃポク達! 妾は真面目に問うておるのじゃぞ! おふざけはダメじゃと言っておるじゃろ!」


「「「「「きゅん?」」」」」


「そ、そんなつぶらな瞳で小首をかしげてみせてもダメなんじゃからな! というかポク達一刀がどこにおるか知っておるな! じゃからそんなおふざけをするのじゃろっ!」


「「「「「・・・・・・・・」」」」」


 僕知らないと言わんばかりにポク達は目を逸らす。

 別に一刀から自分がどこに行くのか教えちゃダメとは言われていないが、ポク達は皆艶魅の質問に答えようとはしなかった。

 なぜポク達は艶魅に協力的ではないのか。

 それは


「なぜ教えてくれぬのじゃ! こっちは真面目に問いかけておるのじゃぞ!」


「「「「「・・・・・・・・・・ジ~~~~~~~~~~~~~」」」」」


「な、なんじゃよ。その目は。妾がなんぞしたかや?」


「「「「「ジ~~~~~~~~~~~~~~」」」」」


 艶魅が先にポク達との約束を破ったからに他ならない。

 皆覚えているだろうか、一番初めの頃、一刀が艶魅をただの悪霊だと思い無視していた頃に、ポク達に好物のご飯を上げる変わりに一刀を止めてくれと願ったその約束を覚えているだろうか。


 艶魅はすっかりそのことを忘れているが、ポク達は覚えている。

 まだかなまだかなとご飯をくれる日を待ち続けていた。

 されどいつまでたっても、何度会ってもくれない。

 だからポク達は協力的ではないのだ。


「「「「「ふいっ!」」」」」


「の、のじゃ!? ま、まってなのじゃ! なんでそんなにそっけないのじゃ! いままで仲良くやっていたであろう! なのになぜにそんなに冷たいのじゃ! まっ、まってたもぉぉぉぉっ!!」


 ポテポテと歩いて行くポク達の後を艶魅は涙目になりながら追いかけた。

 ポク達は艶魅にとって数少ない友達である。

 そんな彼等に嫌われるのは心の底から嫌なのだろう。


「まって、まってなの・・・・・・・・・・・・そ~と」


 そう、イヤなのだが、母タヌキのぽっこりお腹が気になり、触れもしないのに手を伸ばす艶魅であった。


 勿論触ろうとして母タヌキに怒られたのは言うまでもない。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る