第44話 その声は届かない
一刀が異形のモノと殺し合いをしている頃、艶魅は眞銀のメンタルケアに勤しんでいた。
本人はどうってことないと言わんばかりにいつも通りに過ごしているが、一刀に殺されかけ、本当に死と言う恐怖体験をすることになり、心許せる親友は己のすべきことを、そして私を守るために自ら汚い事に手を染める決意をし、動いてくれていることに責任を感じていた。
優しすぎる故に誰かを責めることも、誰かを悪く言うこともしない眞銀。
眞銀は悪くないと慰めようとも、その声は届かない。
自分が弱いせいで、自分がもっとうまくやれれば、自分が、自分が、と心の奥底で泣き叫ぶだけで、その泣き声さえも表に出すことはない。
ただにっこりと笑い繕うのだ。
そんな状態の眞銀を放っておけるわけもなく。
艶魅は寄り添い続けた。
そしてそんな日々が続いたある日の事
「ぬ? 一刀がおらぬじゃと?」
「そうみ「よ~しよしよしよしよし」たい「よ~しよしよしよしよし」ですね・・・・」
楓が一刀を探していると言う話を、楓の手足となって動いている者達から話を聞いた眞銀と艶魅。
眞銀が発現している最中に、艶魅が猫可愛がりしていることは気にしてはいけない。
「眞銀様は一刀様をこちらに来られましたか?」
「いえ、「よ~しよしよしよしよし」最近は誰「よしよしよしよしよし」もいらっしゃ「よしよしよしよしよしししよしよ~し」いません「よ~しよ~しよしよしお~」から・・・神木神様。今お話し中なので静かにしてもらえませんか?」
「別に粗奴には妾の言葉は聞こえておらぬのじゃし、気にせずとも「お・や・め・く・だ・さ・い」・・・そ、そんなぷっくりと頬を膨らませずとも良いではないか。全く眞銀は相変わらずカワユスじゃのぉ~」
流石にまともに話すこともできないので注意したのだが、艶魅は気にも止めずに猫かわいがりを継続する。
ただ、注意されたので静かにはしていたが。
「そうですか。わざわざお時間を取っていただきありがとうございます」
「いえ、お仕事ですから。それより楓は・・・・・いえ、皆さん無理はなさらないようにしてください。一刀さんを捕縛するだけとは言え、あの人は自分に敵対した者に容赦しないと思いますから」
「ご心配ありがとうございます。ですがその心配は無用でございます。文才様から一刀様の能力についてはお聞きしましたし、遠慮する必要はないともご許可を頂きましたので」
「・・・・・・・・・・・・・」
どこまでやるつもりなの? などと聞くまでもなかった。
一刀さんの能力が何であるか知った時点で、殺しても死なないことがわかった時点で、文才様から許可が出た時点で、普通の捕縛方法ではないことは容易に想像できてしまった。
それを知りながら、私は止めることができず、ただ見送った。
「しかし一刀の奴は何処に行ったのやら? 森で迷子にでもなっとるのかのぉ」
「・・・一刀さんって迷子になるほど方向音痴なんですか?」
「それは無いの! 一刀はどう見ても野生児って感じじゃもの!」
野生児・・・そう言えば虫が食べたいとか言って、取りに行かされたっけ。
あの時は凄く大変でだったなぁ。
私虫苦手なのに・・。
「神木神様は一刀さんを探しに行かないんですか?」
「そうじゃなぁ~・・・・・・うむ、今は眞銀の傍にいたいのじゃ。眞銀は放っておくと変な方に変な方に思考を巡らせて、夜中一人枕を濡らすであろう? 昔からそうであったからのぉ」
「・・・・泣きませんよ。もう子供じゃないんですから」
「何を言っておるのじゃ。まだまだ眞銀は子供じゃよ。じゃからよしよ~しなのじゃよ」
「もういいです。それやらなくていいです。恥ずかしいですよ」
「え~なのじゃよ~」
え~と言われても困ります。
周りの人達に見えないとはいえ、恥ずかしいんですよ。
視線を向けてみれば頭を撫でたり、頬っぺたをスリスリしてきたり、頭を抱え込むようにして抱きしめてきたりして恥ずかしいんです。
触れられている感触を感じ取れないのはちょっと、ほんのちょっとだけ残念に思いますけど、けどこの状態を誰かに見られるのは恥ずかしいのでやめてほしいです。
野々恵ちゃんや兎々恵ちゃん達、他の四家の人達にはこの状態が見えるんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます