第38話 豊饒家
「あれはあまりにも異常です」
「それには俺も同意だ」
パスパスッと気の抜けそうな音を発する銃を撃つ男性と、双眼鏡を覗き込む女性が巨木の上にいた
この二人は豊饒家の現当主とその妻だ。
普段は来縁家と共に外で活動し、国や政治家の情報収集に励んでいるが、今回一刀と言う宮塚家の次期当主が現れると言うので、顔合わせのために帰ってきたのだ。
だが、一刀の気性が荒い事を知った豊饒家の二人は直接会うのを危険視し、こうやって遠くから眺め、観察していたと言う訳だ。
「あなたが安易にちょっかいをかけるからいけないんです」
「それは謝罪する。けれど眞銀ちゃんと楓ちゃんを助けるためには仕方が無かった。ウチの娘達がいつも世話になっているいい子達の危機は、流石に見過ごすことはできなかった」
「彼女達の周りにはいっぱい護衛がいましたですよ?」
「人物鑑定で調べたが、奴等は俺等がいる事を知り、助ける気はあまりなかった。恐らく俺達が四家で一番戦力不足と思われている可能性を考え、ここらで彼に俺達の力を見せてやりたかったのだろうと推察する」
銃を持つ男。
この男の名は豊饒 宇一(ほうじょう ういち)
豊饒家の現当主であり、人物鑑定と言う能力を持つ者だ。
人物鑑定の効果は・・・・まぁ、簡潔に説明すると、ゲームのステータス画面のような物が見れる感じだ。
相手の氏名や年齢は勿論の事、体重やスリーサイズまでわかる。
そして、鑑定した者が今考えていることをなんとなく文字として表すことができる。
その能力のおかげで、周りの護衛達の考えをなんとなく理解することができた。
まぁ、本当に表面上の思考しか読めないので、半分以上憶測が混じるので、たまに外すが。
「私達が異形と戦いが不向きなのは本当の事なのです。いくら技術が発展しても銃では異形のモノは退治できませんです。ん? なんか服を破いて上半身裸になったです? 何を?」
「森に入った際、土にまみれ、泥にまみれて己の姿を隠そうとしているようだ。擬態しながら近づく気なのだろう」
「私の夫がずっと見ているのだから見逃すはずがないのです」
「いや、流石に視界の狭まる森に入られては見逃す」
だから近寄らせないために打ち続けているのだが、足を吹き飛ばしても手を吹き飛ばしても、どてっぱらに穴を開けても一刀を止められない。
まるでゾンビの様に。
「引こう。これ以上彼に近づかれては俺達が狩られる」
「まだまだ弾はあるですよ?」
「弾は合ってもアレはどうにもならない。苦痛になれた不死身にいくら苦痛を与えた所で意味など無い。それに俺達がちょっかいを出したことで、周りが眞銀ちゃん達の回収に動いている。目的が達せられたのだからさっさと引こう」
「了解です。それでは帰りますです」
そう言うと、双眼鏡を除いていた女性はスルスルと木を降りて行き、腰に着けていたハンドガンを構え周囲を警戒しながら、夫が降りてくるのを待つ。
そして夫が無事に降りてくると、二人は一刀から離れるように、走り出すのだった。
「ッチ、逃げやがったか。せっかく面白そうな武器が手に入ると思ったのによぉ」
先程まで豊饒家夫妻がいたであろう木の下に訪れた一刀は、残念そうに、そこらに転がっている薬莢を見つめる。
「.300マグナム。こんな弾を撃って、あれだけしか音がしないとは・・・やはりほしいなぁ。あの銃」
猟銃ならば使ったことはあるが、あれほどの高威力の銃は一般人ではまずお目にかかれない。
あれほどの高性能な銃には・・・。
「あの銃はぜってぇ手に入れる。アレがあれば・・・・・殺す手段が広がるってもんだ」
最高の武器をこんな閉鎖的な村に持って来てくれてありがとう。
初めてお前達四家に、感謝の念を送らせてもらうよ。
殺しの道具を持ってきてくれたことに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます