第35話 お風呂(温泉)のお話
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ~」
ざぶんと温泉に入る一刀。
久しぶりにゆっくり浸かる風呂はなかなかに気持ちがいいもんだ。
「「「「「きゅゅゅゅゅゅゅゅ~!」」」」」
「ポク達も気持ちよさそうで何よりなのじゃ」
そしてなぜかポクと呼ばれるタヌキ達も一緒になって一刀と温泉に入っている。
ああ、それと今更だが、ここは一刀が野宿している山の中にある秘湯である。
普段動物達が入っている所に、一刀がお邪魔している感じだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ~」
「「「「「きゅゅゅゅゅゅゅゅ~」」」」」
「ほんに、気持ちよさそうじゃ・・・・・・・羨ましいのぉ」
「あん? だったらお前も入ればいいだろ」
指を咥えて羨ましがる艶魅にそう声をかけるが、なぜか艶魅は顔を真っ赤にさせ恥ずかしそうにモジモジしだす。
「やじゃよもぉ~。妾が湯を感じるには一刀に触れねばならぬであろう。そうなると温泉の中で若い男女が手を繋ぎ、そして肩を寄せ合うことになるではないか。そんな破廉恥な事白など、一刀は助平じゃのぉ~」
「はぁ? 若い女がどこにいる? そもそも女ってのは何処にいるんだよ? 俺には数百年無駄に生きながらえた妖怪男しか見つけられねぇぞ」
「おうこら、誰が男じゃ。その目かっぽじって、よく見んかい」
そう言うと艶魅はばばっ! と服を消し去り、一刀の目の前に浮かび見せつける。
「女として魅力の欠片もねぇアバラの浮き上がった貧相な身体だな。可哀想に。名前負けしてやがる」
「負けとらんわい!」
イヤ負けているだろ。
蟻のように潰せそうな低いタッパ。
どこもかしこもふっくらしてない痩せすぎな身体。
同性と勘違いしてしまいそうな残念平原。
どんな角度から見ても、艶魅から女を感じることも無ければ、俺の男が何かを感じることもない。
「ふわぁぁぁぁ・・ぁぁあっと・・・・しっかし、あのゲテモノ共の匂いはこんな湯で本当にとれるんだろうな。流石に一休みしている時に襲われたらたまったもんじゃねぇぞ」
「おい! 人の話を無視か!」
「うせぇっ、いいから答えろ。じゃねぇと干し柿やらねぇぞ」
「のじゃ!? 干し柿を人質にとるのはずるいのじゃ!」
「いいからさっさと質問に答えねぇか。このグズが」
「妾はグズじゃないのじゃ!」
一刀の言葉にぷんすかぷんすか怒りながらも、せっかく全裸になったので久しぶりの温泉を楽しもうと一刀に寄り掛かりながら温泉につかる。
絵面的には成人男性と幼女が一緒に入っているので、逮捕待ったなしであろう。
「この地の温泉は邪なる穢れを払ってくれる、とてもありがた~い温泉なのじゃ。なんと言ったってこの山の頂上では、月に一度神月家が破邪の儀式を取り行っておるからのぉ。そのおかげでこの山から流れ出る温泉には聖なる気が宿っておるのじゃ」
「くっだらねぇ」
「これっ! 何がくだらないじゃ! そのおかげで一刀のくちゃいのがとれるのじゃぞ!」
「ああ、そういやそうだったな。なら感謝しねぇとな。お前の加齢臭も取れるかもしれねぇし」
「妾は加齢臭などせぬわ! アホタレ!」
ペシペシと叩いてくる艶魅。
物理的に怒りをぶつけるが、力が弱すぎて全く痛みを覚えない・・・というか
「おほっ! 一刀や、主なかなかに良い筋肉をしておるのじゃな! 固さの中にしなやかさを感じるのじゃ! 良い筋肉じゃ! むほほっ!」
「・・・気持ちわりぃババアだな」
気持ち悪い笑みを浮かべながら触れてくる方が問題だ。
別に性的に触れられている訳でもないのだが、それでもニマニマした視線を向けられながら触られるのは気分の良いモノではない。
「やめだ。テメェと入ってると安らぎもくそもねぇ」
「のじゃ!? こりゃ一刀! 今は言ったと言うのに出る奴がおる・・・お、おぉう、なかなかどうして見事なイチモツじゃな・・・・いやん! ぎゃふん!?」
見られて恥ずかしいという感情はないが、イラついたので頭を殴っておいた。
「数百年生きてきてんだから男のもんは見慣れているだろうが。つか前回便所に行ったとき持とうとしてたくせに、何を今更恥ずかしがってんだ」
「何を言っておるか。あれは医療行為の一環であって、今はそうではないじゃろう? なれば乙女としてこういう場合は恥ずかしがるのが正解であろう!」
「乙女(笑)が何言ってんだか」
どうにもコイツの価値観には首を傾げざる負えない時が多い。
長年生きた故か、それとも遥か昔の価値観なのかわからん。
まあ考えるだけ無駄な事であるので、どうでもいい事だろう。
そう思いながら身体を拭いていると、不意に複数人の草木を踏みしめる足音が聞えて来た。
俺を監視している奴等とは違う感じだな。
一人は足音を消すなどできていない素人、もう一人はそれなりに鍛えられた感じと言った所だ。
「「あっ・・・・・・かぁ!?」」
「あん? 何だテメェ等か」
現れたのは、お風呂セットを持った眞銀と楓。
こんな奴等相手に身構えていた自分がバカみたいだな。
「ちょ! 前! 前! 隠しなさいよ!」
「ひゃうぅぅぅぅ~」
「おい見ろ艶魅。アレが乙女っぽい行動だ。まぁ、そのまま恥ずかしそうに眼を逸らすならば満点だったがな」
二人はもはやお約束と言わんばかりに手で顔を隠しながら、指の間から遠慮することなく一刀の全裸姿を満遍なく眺めている。
怒りや悲鳴を上げていても、性事情への好奇心には抗えないのだろう。
「なるほど。手で顔を隠しながらイチモツをガン見するのが乙女か。理解したのじゃ」
「ちげぇよバカタレ。狼狽えたり、悲鳴を上げたりしているほうを言ってんだ」
人の話を聞いていないのか、艶魅まで眞銀や楓と同じように行動してみせる。
まぁ、顔は真っ赤になっていないので面白半分でやっているだけだろう。
「きゅきゅ~ん」
「あん? 何だよお前、もう出るのか?」
「へっへっへっへっへっへっ!」
「・・・拭けってか?」
「きゃうん!」
「・・・しゃあねぇな」
面倒だと思いながらも、バックの中からタオルを取り出し、子タヌキを拭く。
「・・・・・・なんで全員並んでんだ」
「「「「へっへっへっへっへっへっ!」」」」
「拭けってか?」
「「「「きゅうん!」」」」
「・・・・メンドクセェな」
そしてなぜか全員拭いて欲しそうに並び出したので仕方なく一刀は全員拭いてあげた。
なんとも面倒見のいいことである。
「へっくし! クソ、冷えちまったじゃねぇか」
「なればもう一度温まった方がよいぞ。イチモツも心なしか萎んでおるしの」
「くだらねぇセクハラこいてんじゃねぇっての」
「良いではないか、このくらい。ほれ、こっちゃこい。こっちゃこい。妾ももうちっと温泉を楽しみたいのじゃ」
「・・・クソ気持ちわりぃな」
「眞銀達の様に、心の中でぐへへしているよりは気持ち悪くなかろう?」
「・・確かにそうだな」
「「そんなこと思ってません!」」
艶魅の言葉を否定するが、未だに目をそらさない時点で信頼性は皆無だ。
「そんな否定せんでも良かろうに。一刀は別に気にせんよ。それより一緒に入ったらどうじゃ?」
「は、入れるわけないじゃないですか!」
「そうですよ! こんな奴と一緒なんて!!」
「何を言っておるか、いつか一刀と番うのであろう? なれば全裸などすぐに見飽きる関係になるではないか。少なくとも半年は毎日ずっこんばっこんやって貰わねば」
「「やりません!」」
品性の欠片もない艶魅の言動。
コイツは数百年漂ってきて、羞恥心などの感覚を失ったのかもしれないな。
「まったく、度胸のない娘っ子じゃよ。なれば一刀、ちょいと口説いてやってはくれぬか? そのままいい雰囲気になって一発ふぎゅん!?」
「いい加減気分の悪くなること抜かしてんじゃねぇボケナス。沈めるぞ」
「殴る事無かろうに! まったく幽霊ジョークの通じぬ男じゃよ。まったく」
まったくはこっちのセリフだな。
そんなクソジョークを聞かされるだけで腹が立つんだからよ・・・つか、マジでコイツの事つかめる時点で溺殺することも可能かもしれない。いっちょやってみるか?
「な、なんじゃ? ま、まさか妾を襲う気かえ? し、仕方ないのぉ。ちょっとだけよぉひぎゃっ!? ジョークじゃと言うのに何故殴るのじゃ!」
そんな事を思う一刀だが、どうにもコイツは溺殺させられるとは思えず止めることにする。
あれだ。
艶魅の場合、溺れても軽く腹を押すだけで、噴水の様に口から水を吐き出して何事もなく漂っていそうだしな。
というか、そもそも死んでる奴を殺すとか意味がわからんし・・・。
「まったく、いたいのぉ。ほんに、いたいのぉ・・・・・ふふんふふんふんふん! あびばびのんのん! ふふんふふんふんふん!」
不機嫌そうに、それでいて構って欲しそうに騒いでいた艶魅であったが、すぐに温泉の暖かさに機嫌を良くし、どこかで聞いた歌を口ずさみ始めた。
ホントにコイツを見ていると、早々殺せない・・いや、消滅させられないタイプの幽霊に見えてくるぜ。
いつかコイツを消滅させられる方法を考えないとな。
などと思いながら、未だに顔を真っ赤にしている眞銀達を無視して、まったりと温泉を楽しむのだった。
「「「「「「きゅ~ん?」」」」」」
「あん?・・・オイコラ! また入ろうとすんじゃねぇ! また濡れても拭いてやらねぇかんな! って、こいつ等入りやがった」
「「「「「「へっへっへっへっへっへっ」」」」」」
「楽しそうにしやがって・・・・・バカにしてんのか?」
「「「「「「へっへっへっへっへっへっ」」」」」」
「・・・・上等だ! テメェ等! 今日はタヌキ鍋にしてやんよ!」
「これっ! ポク達を食おうとするでないわ! それだけは許さぬぞ!!」
まあ、騒がしくも自由奔放なタヌキ達がいるおかげで、最後までまったり温泉を楽しむことはできなかったが。
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