第34話 厄が付いていた


「うにゅう、うにゅううう」


 猫のような鳴き声を発しながら、艶魅はベシベシと一刀を殴る。

 目に涙を溜め、頬を風船のように膨らませながら。


「いい加減にしろ。ちょっとしたおふざけだろうが」

「おふざけでもやっていい事と悪い事があるのじゃ! ホントに恐かったのじゃぞ! 地下室の花子君にぱっくんちょされかねなかったのじゃぞ!」

「幽霊を食べる幽霊か。いいなそれ。そのまま食われておけばよいモノを」

「むにゃーーーーーっ! なんでそんな事をいうのじゃ! そう言う怖い事言うでないわ!」


 怒った艶魅がベシベシと殴りかかってくるが、頭を掴んで遠ざけているのであたることはない。

 いくら宙に浮かべるといっても、手足の短いお子様体型では届くわけもない。


「うざってぇ悪霊だ。ホント食われてしまえばよかったのによぉ・・・・・・・あん?」

「むにゃーーーーーっ! のじゃーーーーーっ!!」

「うるせぇ。黙れ」

「のぎゃうむっ!?」


 歩いていると、ふと変な気配を感じた。

 またどこかの家の者が後をつけて来たのかと思ったが、そんな気配ではない。


「・・・・このなんとも言えねぇ感じは・・・・・・・・・・ああ、なるほど」


 今さっき知ることになった気配。

 俺の肉を食い、俺にぶち殺された雑魚の気配だ。


「むむむむ・・むはっ!? これ一刀! お主はいちいち妾の口を塞ぐでないわ! 窒息死する所だったではないか! それともそう言うぷれいがお望みかの? いやじゃよまったく、これじゃから最近の若いもんはぎゃっ!?」

「アホ抜かしてんじゃねぇ。つか仮にも神として称えられてる癖に、何で気付けねぇんだよ。耄碌してんのかババア」

「のじゃ!? 誰がボケババアじゃ! まだピッチピチじゃ!」

「何がピッチピチだ。魚類かテメェは」

「誰も陸に打ち上げられた魚の話などしておらぬわ!・・・・のじゃ? なぜ構えておるのじゃ? まさかまた喧嘩ぬみょっ!?」


 話しをしている途中で一刀は荷物地面に置き、構えを取ると、艶魅の顔面真横に向かって拳を振りかぶった。


 パンッ! と何かがはじける音が響く。


「ひにゃっ!? ひにゃっ!? にゃにをすにゃなうっ!?」


 びっくりしてろれつが回らなくなり、当たらずとも振りかぶってくる拳に恐怖した艶魅は目を瞑り、頭を抱える。

 そんな艶魅を無視して、一刀は拳を振るい続けた。

 拳を振るうたびに何かがはじける音が響き渡り、最後に真上に向けて何度か蹴りを放ったのちに周りを確認すると、何事もなかったように荷物を肩に掛けた。


「なぜ行き成り襲われるようになったのか・・・なんて、理由は一つしかねぇよな。ッチ、マジでここの奴等は碌なことしやがらねぇ」

「うぅぅぅ、いったいなんなのじゃ~」

「なんなのじゃ~。じゃねぇアホ。マジで耄碌してんのか」

「ボケとらんわっ! 一刀が行き成り殴ってきたのじゃろう! ひぐっ、ひぐひぐっ、怖かったのじゃよぉ~」

「殴ってねぇだろ。アホが」

「アホアホいうななのじゃ!」


 ベソかいたり、怒ったりと騒がしい奴だな。


「つかいつまでも目を閉じてないで周りを見て見ろってんだ。そうすりゃアホな事言っていられねぇぞ」

「うにゅう、何を・・ふじゃっ!? なんでこんなとこに、こんなバッチイモンがおるんのじゃ!?」


 艶魅が目を開けた先には、黒い丸い物体が転がっていた。

 黒い血のようなモノを撒き散らしながら。


「なんでも何も俺を狙って来たんだろ」

「それは可笑しいのじゃよ! じゃって昼間はこの街には入れぬように結界を張っておるのじゃぞ!」


 結界? 初耳なんだが?


「それにこのバッチイモンは夜行性なのじゃ! 日の光を浴びるのが大嫌いな奴等なのじゃ!」

「なんだ? 日の光に浴びたら灰にでもなるのか?」

「違うのじゃ。そう言うのではなく、こう、引きこもりがお外出たくない! 的な感じじゃな」

「・・・いっきにこいつ等の脅威度が下がったんだが」


 先程まで人様の血肉を食い千切る猛獣レベルに考えていたのだが、見る目が変わったぞ。

 悪い意味で。


「まぁ一刀がそ奴等の匂いを付けておるから惹かれてきたのやもしれんな。まったく臭くてかなわぬのじゃ」

「あん? 匂いだぁ?」

「主の足じゃ、足。それ、あのバッチイモンに食い千切られたのじゃろう?」

「なんだよ気付いていたのか」

「まあの。可麗奈のことじゃし、一刀に今後脅威となる存在を見せてやりたいとお節介を焼いていたのは容易に予想できるわい。ただ怪我をしたのは予想外なのじゃよ。可麗奈達はそう言う危ない事をさせぬと思ったのじゃが・・・何かあったのかの?」

「別になにもないぞ。少しちょっかいをかけただけだ」

「ふむ・・・あぁ、なるほどの! 一刀の事じゃし不用意に近づいたのじゃろ! まったく、これじゃから考えなしの子供は危なくて仕方が無いのじゃ。次からは気を付けるのじゃぞ。こいつめ~のじゃゃゃゃゃゃっ!? やめい! 指を変な方向に曲げるにゃ! 折れるのじゃぁぁぁっ!?」


 あまりに反応がウザかったので指をあらぬ方向へ折り曲げてしまった。

 まだ折ってはいないが、折っていいよな? こいつの指の一本や十本くらい別に。


「のじゃゃゃゃゃっ!?・・・ふん! 超空中大回転なのふがっ!?」

「面白い動きではあるが、所詮素人の域を出ねぇな」


 指がおられないように空中でくるりと回る判断は褒めてやるし、再度折ろうとするたびに回り続けることも褒めてやるが、動きが雑過ぎる。

 もうちっと周りを警戒して置けば俺に顔面を掴まれなかったと言うのに。


「はぁ~、面倒になってきたなぁ。つか、意味わかんねぇゲテモノ共ぶっ殺したせいで俺の拳も匂いが付いたってことか? そうなるとまた羽虫の如く群がってくるのかよ。クソ最悪なんだが」

「むぅ~! むむむぅ~! 離すのじゃ~~~!」


 苦言を発する艶魅の事はさておき、先程の様にまた襲われることが億劫に思う一刀であった。

 ブンブンと艶魅に八つ当たりしているが、もはやそれは日常となりつつあるのだった。


「うえぇぇぇ~ん! ましろぉぉぉ~! かえでぇぇぇ~! 一刀がイジメるのじゃよぉぉおぉ~! 助けてたもぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


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