第32話 異形のモノ


 あれから男の娘好き可麗奈と、ふたなり女好き(疑惑)の天城から檻に閉じ込められている異形のモノについて話しを聞いた。

 自分の頭部を心配している重善の事は知らん。

 アイツは何が気に食わないのか無駄に突っ掛かってくるからな。


「するってぇとなにか。最近だとこういう中級の化け物共が蔓延ってるって言いのか?」

「ええ、そのとおりですよ」


 人の肉を豆腐並みに噛み千切ることができるこの謎物体が、最近増えているらしい。

 ただし光には弱く、無断で家の中に入ることはできないようなので、夜間に外に出なければ早々襲われることはないのだとか。

 どこのヴァンパイアだ。アホクセェ。


「そして増え続けた中級は次第に一箇所に集まり上級の異形へと変貌します」


 こんどはスライム要素を増やしてきやがった。

 頭の上に王冠でも被るようになるのか?


「ホント困っちゃうわよね。上級の異形ともなると私達当主人くらいしか対処できないんだもの。それにうちの子は不真面目で、暇さえあればディボニーランドで遊び惚けてばかりだもの。下の子は戦闘とは無縁の能力だし、人手が足りなくて困っちゃうわ」


 はふぅ、と艶めかしいため息を吐く可麗奈。

 色っぽいその姿に男ならば反応しそうだが、彼女達を敵と認識している一刀は何も感じることはなかった。


「困るならちゃんと教育してください。あなたの娘である時雨さんはなかなかに強力な力を手にしているのですから」

「それはそうなんだけどあんまり束縛したくないなぁ~って・・・・ほら、子供ができちゃうと本格的に自由なんてなくなっちゃうでしょ? あの子が大好きなディボニーランドも子供ができたらいけなくなっちゃうし・・・」

「・・・相変わらずあなたは甘いですね」

「・・・えへ」

「笑ってごまかさないでほしいのですけど?」


 とても仲良く気心知れた相手と言った雰囲気を醸し出す二人。

 こいつ等を見ているとなんだか眞銀と楓を思い出すな。


「ババア共の無駄話に付き合ってる暇なんざねぇって言ってんだろが。いい加減にしねぇと全員ぶち殺すぞ」

「あら怒らないで婿様。ちょっとした戯れではないですか」

「それがウザッテェって言ってんだ。つか俺を婿と呼ぶな。てめぇ等の乳クセェガキを嫁に貰うつもりなんざねぇんだからな」

「そればかりは了承しかねます。婿殿には必ずウチの楓と子を成していただけなくては困りますので」

「ウチの可愛い子達もお願いしますね。私の娘は少々癖がありますが、男性がお喜びになるモノをお持ちですから」


 そう言うと可麗奈は己のデカイ胸を自慢げに持ち上げる。

 それを見てごくりと喉を鳴らす・・・・・・気絶していたはずの重善が。


「あ~な~た~?」

「ふぐっ!?」


 いったいいつ目が覚めたのか、何処から話を聞いていたのか、これは男として正常な反応であって、などと弁解する暇さえも与えられず天城は夫を再度絞めにかかった。

 まぁ、妻からしたら面白くないのだからそうなるのも仕方が無いだろう。

 天城の胸は可麗奈とは対極に位置しているのだから。


「・・もういい。お前達から得られる情報はこれ以上なさそうだ」

「あら~? まだまだお話してない情報があると思いますよ? 例えばそれの退治の仕方とか」

「はん、アホクセェ」


 安い挑発だと思いながら一刀は、再度檻の中に囚われている異形のモノを蹴り飛ばそうと足を振り上げた。

 また肉を食られる。

 そう思い可麗奈や天城は止めるように声が出そうになったが、


 ゴボベッ!?


「「!?」」


 二人の心配をよそに一刀は何事もなくその異形のモノを蹴り殺した。


「・・・慣れが必要だな」


 僅かに食われた足に視線を向け舌打ちをすると、一刀は目の前に転がる異形のモノに興味を失った。


「何を・・やったのですか?」

「さあな」


 そう言葉を残しそのまま地下から出ていくのだった。

 食われたはずの足はそんなやり取りをしている間にすっかり元通りに治っていたが、一瞬ボコボコと足の肉が生き物のようにひとりでに動いたのを天城達は気付くことはなかった。


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