第18話 意地を張った結果
神月家などに布団や雨風凌ぐ部屋を提供されたくなどない、飯も水さえも施しを受けるつもりはない。
楓から受けた痛みが引いた後そう暴言を吐くと、ブチギレた楓に中庭に投げ捨てられた。
ならばそこで勝手にしろとの事であり、一刀はその言葉を否定することなく受け入れた。
先程まで部屋から出るのをあれほど拒んでいた癖に、自ら追いやるとはやはり楓はバカなのだろうか? などと思った瞬間に、何処から取り出したのかクナイが飛んでくる。
気付くのが少しでも遅れていたら今頃一刀の眉間に穴が空いていただろう。
もはや眞銀の前でも皮を被るのをやめたのかもしれないな。
なんとも沸点の低い小娘である。
よく今まで騙し続けていられたものだ。
しかし、外に出られたからと言っても、周囲には宮塚家と影宮家の手練れがこの家を囲っている。
重症で満足に動けないと言うのに、警戒は緩めることは無い。
なんともやりにくい奴等だ。
せっかく外に出られたのだが、こりゃあ逃げられんな。
それから一刀は傷が癒えるまでの辛抱と思い、神月家の庭に住み始めた。
飯はそこら辺に飛んでいる虫や庭に生えている草。
たまにタヌキ達が持ってきてくれる森で取れた果物などを食べて飢えを凌いでいる。
水は僅かな朝露と泥水を飲むことで渇きを凌いだが、それでも限界はあった。
特殊なサバイバル訓練を受けていようとも、その知識を活かそうにも流石に満足に動かない身体では、必要なカロリーを摂取することが出来ず一刀は日に日に衰弱していった。
そんな状態を見かねて眞銀が食事や水を用意するが、一刀は手を出すことはない。
楓もなんだかんだ言って心配し、無理やりにでも食べさせようとするも、口に入れた先から吐き出されてしまう。
仕方なしと一度口に食べ物を詰め込んだ後、鼻と口を押え呼吸できない状態にしたのだが、一刀は静かに瞳を閉じ自ら窒息死を受け入れていた。
そのため無理やりに食べさせるのを二人は早々に諦めることとなった。
それでも放置するなどできず、何度か神月家に医者を呼び点滴から栄養補給させようと試みるも、意識が朦朧としていようとも、視覚が朧気であろうとも医者の姿は判別できるのか、点滴を打とうとした瞬間一刀は己の舌を噛み切る準備を始めるので、医者も手をこまねいていた。
現に針が皮膚に触れただけで、舌から血を流れる程であり、軽く針が皮膚を貫くと、同じように舌を噛み切る力が増していった。
点滴もダメとなると、一刀の治療にはもう拘束衣を使用してでも強制的に保護するほかないのではと思うが、残念なことに保護しようとすると一刀は楓が投げたクナイで己の喉に突き立て、近づくことを拒むため、捕縛の案もついえた。
唯一一刀はタヌキ達が持ってくるものを警戒せず食すのでそれが救いと言えば救いだ。
ただし、眞銀達がわざわざ森に新鮮な果物をばら撒いても、タヌキ達はその果物を一刀の元に持っていかず、必ず森で自生しており、自分達が見つけた物しか持っていかない。
そしてタヌキ達もばら撒かれた果物には目もくれることはない。
自生している森の果物のように質の悪い物を用意しても、タヌキ達は一刀の元にもってゆかず、そして間違って持っていっても、一刀はそれを口にする事は無かった。
「のう、お主はなぜそこまで頑として拒むのじゃ? お主が神月家や四氏族を嫌っているのは見ていればわかる。じゃが、流石にお主のそれはあまりに異常であるぞ」
「・・・・・・・・・」
そして、一刀が外に放り出されてからずっと傍に寄り添い、心配気に声をかけ続け、説得を試みる悪霊幼女。
そんな悪霊幼女の声にも一刀は別段反応は見せない。
ただ静かに目を閉じ、出来るだけ体力を温存していった。
「・・・丸一週間・・もはや話す力も残されておらぬか。ならば助けを呼ぶとしよ・・・・・・・はぁ」
助けという言葉に反応してか、一刀は握り締めていたクナイを己の喉に押し当て僅かに切る。
滴る血を見て悪霊幼女は疲れたようにため息を吐いた。
「もう怒ることも馬鹿らしくなってきたわい・・・・・」
そう言うと、悪霊幼女は一刀の隣に座り込む。
「何がそなたをそこまでさせるのであろうな。怨みだけで、そこまでの苦しみに耐えられるものではないじゃろう? 腹が減るのはあまりにも苦痛で、渇きは喉が焼かれるほどで死を切望するほどぞ。怨みの対象であろうとも、その苦しみから逃れることができるならば、その手を取り、助けを求めるものじゃ」
動かない一刀をいいことに頭に手を置き撫でる。
「・・お主の怨みがどれほどのモノかなど問いはせぬ。じゃが一つだけ答えてくりゃれ。お主は・・・・妾が嫌いか?」
悪霊幼女の問いに、一刀は静かに瞳を開け、視線を向ける。
「・・・・・・・・そうかの」
ただ視線を向けただけであったが、その瞳の中に憎悪を見た悪霊幼女は悲し気に顔を歪め、ゆっくりと一刀の頭から手を退けるとフヨフヨと一刀の傍を離れて行った。
その姿を見ても一刀は何も思う所はないのか、ただ瞳を閉じた。
腹が減った。
水が飲みたい。
辛い、辛い、と心が悲鳴を上げていようとも、一刀は助けなど求めずただその辛い時間を忘れ去る為に、意識を失えるのを待ち続けた。
そして、
「【妾の命じるままに動け】」
どこか聞きなれた声に一刀の身体は拘束された。
「・・・・・・・・・・」
行き成り身体の自由が奪われたことで理解した。
これはあの悪霊幼女の力であり、また眞銀の身体を使っているのだろう。
「お主がなぜ妾達にそれほどの憎悪を向けるのかわからぬし、その理由を教えてくれぬ以上知ることはできまい。じゃがな、たったそれだけの理由でお主を助けぬなどと言う選択はできぬ! 苦しむ者を見捨てることなどできぬ! 人を助け、苦しみから癒さんとするのが妾の存在意義じゃ! 善意の押し売りとも有難迷惑とも、傍迷惑とも好きに罵るがいい。それでも妾は止まらぬからなっ! 【抗わずに水を飲めい】」
悪霊幼女の命令に一刀の口は勝手に開く、その口に眞銀に乗り移った悪霊幼女は水を注ぎ無理やり飲ませて行く。
「ほれ! 次は眞銀特性・・ぶ、ぶあいんど?栄養・・とりみんぐ?・・・ええい! よくわからん変な混ぜ物じゃい! これも【飲めい!】それとこれもじゃ! 栄養の粒じゃ! ぶたみんしーだが、みーだかしらんが、まあ身体に良い物じゃ! 【全部食え!】」
そして、一刀の口に次々と色々な飲み物や栄養剤が放り込まれ、無理やり食わされていった。
どんな人間でも、たとえ己に悪意を抱き、憎悪を向ける相手であろうとも助ける。
その心意気は素晴らしい・・・素晴らしいのだが、人の看病など碌にしたこともなければ、基本怪我や病気は腹がはち切れんばかりに栄養価の高いを物を食べ、寝れば治ると思っているおバカ幼女なので看病などできるはずもなく。
「・・・・・・ガクッ」
「およ? どうしたお主よ・・・・・・・い、息してないのじゃーーー! まっ! ましろぉぉぉぉっ!!・・・あっ、眞銀の身体は妾が使っておるのであったな・・・・・・かえでぇぇぇぇぇぇぇっ!! 助けてたもぉぉぉぉぉっ!!」
むしろ悪化させる結果となるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます