第16話 悪夢
闇
光は届かず、ただ闇だけが広がるその場所に一本の小さな枯れ木が佇んでいた。
いや、それは枯れ木などではない。
それはガリガリにやせ細った男の子であり、枝と思われたモノは男の子の身体に突き刺さった無数の管であった。
肌は日の光など浴びたことが無いかのように病的に白く、目の下には墨を塗りたくったような大きな隈が広がり、目や頬が窪むほどに瘦せこけ、人の骨格が浮き彫りになっていた。
誰の目から見ても餓死寸前であるが、男の子の身体に付き刺さっている管からは定期的に必要な栄養剤を送られているので、決して餓死することはない。
「ガ・・・・・アアアアアアァァァッ!!」
そして、管から送られてくるのは栄養剤だけではない。
自然界に存在する猛毒、人が生み出した劇物、未だ特効薬の無い病原菌。
人を苦しめる毒や病原菌が男の子の身体に突き刺さている管から流れ、男の子の身体の中に入っていった。
身体を掻きむしるほどの痛み、胃の中身をひっくり返しても収まることのない吐き気、虫が身体中を這い食い破っていく幻覚に、鼓膜を潰しかねない幻聴が絶え間なく聞こえてくる。
そんな世界で安眠などできる訳もなく、男の子はこの場に連れて来られてから一睡もできていなかった。
そして、そんな地獄の世界で幼い男の子の精神が持つわけもないが、それは男の子のある力によって否が応でも精神を正常に保たれ続けていた。
心が壊れ、狂ったように笑い出すも、ものの数秒で元の精神状態に戻り、また正常な状態で苦しみだすのだ。
男の子の能力である【不死】と呼ばれる力が作用しているために起こる現象。
この【不死】という能力は男の子を決して死なせはしない。
どんなに痛めつけられ精神が壊れようとも、男の子が男の子であれるように心を癒す。
勿論肉体の治療もされるが、なぜか肉体だけは一般人と変わらず傷の治りも病の治りも同等であった。
だが、血が猛毒になり替わろうとも死にはしない。
肉がゼリーのように溶けてなくなろうとも死ぬことは無く、時間をかけて元通りになる。
数十もの細菌を投与されても悶え苦しむだけで死にはせず、時間をかけて抗体がつくられていった。
「実験20,584回。再度青酸カリへの耐性実験を開始します」
そして、そんな男の子の力を利用して、大人達は人体実験を繰り返していた。
主な目的は病気で苦しむ人々を助けるため、新たな成分を発見し化学の発展させる為など色々な意味がある。
一人の犠牲でもって、多く苦しむ人々を助けようとしている。
そう言う崇高なる目的があっての、実験であった。
ただしそれは、非道な実験を行う上での言い訳でしかない。
彼等は、金になるから実験を繰り返しているだけだ。
不治の病の特効薬を作るだけで金になる。
人体から荒なた薬品ができないかと実験し、もしも発見できればそれも金になる。
特許を得れば黙っていても金も名声も手に入る。
たった一人の子供に地獄を見せるだけで、金と名声が得られるのだ。
ならば、この道具を有効活用しない手はない。
「アアアアアアアアアアッッッッッッッ!!」
故に悲痛に満ちた叫び声や、
「ダ・・・ダズゲアアァァァァアッァァァッッッーーー!!・・ダダレガ・・・コロジデデェェェェェーーー!!」
助けを求める男の子の声が、死を望む男の子の声は、欲深い大人達に届くことはなかった。
その闇の中にはそんな大人達しか存在しないのだから。
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