第12話 神月家の当主
なんだかんだとあったが、一旦場が収まったところで文才達は腰を下ろし、話を始めた。
「神木神様並びに神月家の方々、お騒がせしましたこと誠に申し訳ございませぬ」
「いえいえ、お気になさらないでください。皆様のお力が見られる機会などそうそうありませんので、貴重な体験をさせていただきました。それより、そちらの方が文才さんの後継者様でお間違いございませんか?」
「その通りでございます。ただ教育が行き届いておらず、まだまだ跡を継がせることは叶いませぬが」
本人を差し置いて、文才と神月家当主の二人で話を進めているが、別に話に交じる気のない一刀は寝そべりながら子タヌキに餌を与えている。
「おい、飯食わせてやったんだから、あのクソ野郎にクソかましてこい。この際ションベンでも許してやるぞ」
そして一刀はなんとも子供じみた嫌がらせを子タヌキに命じていた。
「お主はこん子に何をさせるきじゃ! バカなこと言うとらんで、ちゃんと座らぬか! 目上の方々がおると言うのに寝転がるとは、あまりに失礼な態度じゃぞ!!」
そんな一刀の傍には神木神と呼ばれた悪霊幼女がフヨフヨと浮かびながら、叱りつけてくる。
「というより、お主よくも妾に酒など飲ませおったな! 頭が痛くてかなわんわ! ガンガンと鐘の音が響いているかの如く酷い目に追うたのじゃぞ! 謝罪として甘味を用意せよ! 今用意せよっ!! すぐ用意せよっ!!」
更に文句を口にしてきて、うるさいことこの上ない。
まあ、一刀は人の目がある為、悪霊幼女を意図して無視しているが。
「これ! お主はまた妾を無視する気じゃな! 無視するでない! 酒の入っておらぬ甘味をよこせ! よこせと言うに! よこせったらよこせなのじゃー!!」
バタバタと暴れるも一刀はひたすらに無視を付き通す。
すると、またグスグスと泣き始めた。
コイツの行動パターンは叫ぶか泣くかのどちらかしかないのだろうか?
そんな事を思いながらも一刀の対応はかわらない。
「むぅぅぅぅ!! ましろ~!」
ぴゅ~んと悪霊幼女は神月家が当主の娘、神月 眞銀の元に飛んでいき、膝に顔を埋めた。
そして、とうの眞銀は困った顔をしながら、何とか慰めようと手を伸ばし背中を撫でようとする・・・が、その手は悪霊幼女の身体をすり抜け触れるだけであった。
やはり悪霊。物に触れることなどできないのだな・・・・だったら、あの膝に顔を埋めているのもただのポーズなのだろうな。
少しだけ罪悪感を覚えていたが、やはり相手は悪霊であるとわかり、その感情は無駄だったと思う一刀である。
「それで、まだ彼には例のお話をしていないのですか?」
「はい、お恥ずかしながらその話をする前に、片付ける案件が色々とございまして時間が取れませんでした。そして、その話をしてしまうと連れてくることは叶いませんでしたので・・・」
「そうですか・・・」
「申し訳ない」
「いえ、責めている訳ではありません。僕もまだ娘には話していないのですよ。なにぶんデリケートな話ですし、中々言い出せなかったのです。ですからこの場をお借りして本日お話しようかと・・・すみません」
「男親として一人娘には話しづらい事は重々承知しております。儂などに頭を下げないでください。貴方様は神月家のご当主様であらせられるのですから」
「はい、すみま・・・・いえ、わかりました」
話の流れから一刀に関する何か良からぬたくらみを文才が抱いていたことがわかり、一刀はいつでも逃げ出せるよう姿勢を正し、子タヌキを抱えられるように手を添える。
今この状況で戦うべきではない、ジジイの取り巻きがいるだけならまだしも、力を持つ他家の者がいるならば殺せる機会は訪れない。
次の機会が訪れるまで仕切り直しだ。
宮塚家の操り人形などなってたまるかと決意し、一刀は警戒する。
「えっと、君が文才さんのお孫さんだよね。初めまして宮塚 一刀君。僕は神月 周白。気軽に周白と呼んでくれていいからね。だから僕も一刀君と呼ばせてもらうね?」
一刀は言葉を返さず、無言で睨みつけるが、周白は特に気にした様子も見せず話を続けた。
「妻が亡くなってから一応神月家の当主をやらせてもらっているけど、僕は入り婿でね。皆さんのようなすごい力を持たない形ばかりの当主だから言葉遣いとか気にしないでほしいな。そうだね。親戚のおじさんと思って気兼ねなく接してくれると嬉しいよ」
そう言いつつ、手を差し出し、握手を求めてくる周白であるが、一刀は鋭い視線を向けるだけでその手を握ることはない。
その行動に文才が一歩前に出てくるが、周白は首を振りそれを止める。
「まあ、一刀君が神月家と四氏族を嫌っているのは文才様から聞いているし、一刀君からしたら神月家の当主の僕に話しかけられても迷惑であるのも理解しているよ。だけど今の僕は神月家の当主としてではなく、一人の人間として一刀君と仲良くなれればと思っているんだ」
人の良さそうな笑みを浮かべたまま、差し出された手をなおも向けてくる。
そんな周白に一刀は小馬鹿にした笑みを浮かべる。
「力もなく、妻の地位を受け継いだだけの男が当主の座に居座るか。中々に滑稽だな」
「そうだね。僕もそう思うよ。だけど神月家の血筋は僕の娘しかいなくてね。娘が成人するまでは僕が当主として頑張らないといけないんだ。誰かに任せて娘に何かあっては、僕は僕を許せないからね」
「娘を愛するが故にってか? そりゃあ泣ける話だな。その行動は尊敬に値する・・・が、神月家である限りお前は俺の敵だ。わかったらさっさとその手を引っ込めな。馴れ合う気はねぇ」
もしも、周白と二人きりであったならば確実に差し出された手を握り潰し、顔面を殴りつけ、そのまま顔が潰れるまで殴り続けていただろう。
それをしないのは後ろに控えている文才や周囲の宮塚家の女中、影宮 楓がいるからだ。
居なければ名乗りを上げた瞬間に、周白は葬儀屋に送られていただろう。
「はははっ、これは参ったな。取り付く島もないや」
「申し訳ありません」
「いえいえ、何か並々ならぬ事情があるようですので構いません・・それより、一刀君。君はここに呼ばれた理由は文才さんからまだ聞いてないよね」
だからどうした。お前には関係の無い話だろと思いつつも、文才と話すより幾分この男から話を聞いた方がさっさと帰ることができると思い、一刀は静かに頷く。
「なら何故一刀君が呼ばれたのか話させてもらうよ。といってもそんなに話が長くなるわけじゃないし、だらだら話されるのも嫌だろうから簡潔に話させてもらうね。そうだな・・・・君にはこれから宮塚家の当主候補としての役目をこなしてもらいたい」
「・・・・・ア゛?」
宮塚家の当主候補その言葉を周白がはいた瞬間、一刀の雰囲気ががらりと変わる。
今まで文才に向けていた殺意と変わらぬ殺気を周白に向けていた。
「そんなに殺気を向けないで欲しいな。僕は君が呼ばれた理由を話しているだけなんだから」
そして、一刀の殺気をまじかで受けているにもかかわらず、周白は涼しい顔で受け流しながら苦笑いをする。
なかなかに肝が据わっている男のようだ。
「それに当主になって欲しいのではなく、当主候補としての役目をこなしてほしいだけだよ。別に当主になる必要はないよ」
そんな言葉を信じられるわけない。
確実に使える駒となれば、宮塚家はどんな手を使っても取り込み使い潰そうとする。
そもそも宮塚家の純粋な血筋は一刀以外いない。
他を当主に置くなどといった考えはないだろう。
当主候補が一刀しかいないのだから、候補と言う言葉も建前でしかないだろう。
「僕的にはこの話は蹴ってくれても一向に構わないよ。色々宮塚家の考えやしきたりがあるようだけど、僕は入り婿だからそう言うのには疎くてね。子供に色々強制したりするのは嫌いなんだ・・・・文才さんそんな怖い顔しないでくださいよ」
失言だということはわかっているのか、周白は困ったように頬を掻く。
「ま、まあ、君を呼び出した理由の一つはそういうことだよ。うん。そしてここからが僕としては本題でね・・・・・一刀君」
先程から弱弱しく当主としての器ではない、本当にそこら辺にいるおっさんと変わりない。
いやそれ以上にひ弱そうで吹けば飛んでいきそうなほど頼りない周白の顔付きが変わり、それなりの威圧感を醸し出した。
文才の足元にも及ばないが、それでも今まで舐めていた周白からそれなりの威圧を出してきたことに一刀は驚く。
まるでハムスターがドブネズミに進化した程度の変化だが・・。
「神月家、並びに四氏族と縁を結んで欲しい」
「・・・・・・・舐めてんのか?」
「ほえっ?・・・はえぇぇぇぇぇぇぇ!?」
また意味の分からないことを宣った周白に一刀は殺意を向け、話を聞いていた眞銀は驚き叫んだ。
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