第5話 宴会終了のお知らせ


 正気に戻った楓はきまり悪そうにしながらも、眞銀に再度甘味の取り過ぎには注意するように言い含めていた。

 眞銀は何か言いたげな顔をしていたが、下手な事を言って説教が長引くのを恐れ、口を尖らせながらも素直に頷いている。

 そんな子供じみた行動に楓は小さなため息を吐きつつも今はこれで良いと思ったのか、眞銀の希望通り長い説教はすることは無かった。


 それよりも今は元凶を注意しなければならないと思い未だにバリバリと菓子を食べ、酒を煽る青年へと目を向けた。

 食べ終えたゴミは風に飛ばされないようにちゃんとゴミ袋に入れているとはいえ、食べ方が汚いのか、地面にボロボロとこぼしている。


 チップス系など一枚ずつ食べればいいのに、袋から取り出すのが面倒と言わんばかりに袋を逆さにしながら食べているのだ。

 そのせいで、口の周りに青のりなどが大量に付着していたりもする。

 まるで大きな子供である。


「貴方は!・・・え~、まずは口を拭いてもらえませんか? なんだか頬にまでべったり青のりが付着して泥棒のような髭に見えて集中できないので」

「・・・・・・・・・」


 何言ってんだコイツと言った視線を向けながら、青年は楓の言葉を無視しながら、酒を煽る。

 その青年の視線と行動に楓の額に怒りマークが浮かび上がるも、初対面で行き成り声を荒げるのは失礼と考え、努めて笑顔で対応する。


「人が話しているのですから何か反応して欲しいですね。それとも初対面の相手にはお話しできないほどシャイなお方なのですか? それでしたらまずは自己紹介させて頂きます。私は影宮 楓(かげみや かえで)と申します。こちらの神月 眞銀様(かみづき ましろ)のお世話係としてお仕えしている者です」


 ペコリと頭を下げ挨拶する楓だが、その頃には青年は墓石に身体ごと視線を戻し、酒を煽っていた。

 こうもあからさまにシカトされては温厚に努めようとしている楓の笑みも引きつるというもの。


「・・・・・・・すすすっ」


 楓の眉がピクンと一度撥ね、瞳から感情が薄れてきたことに気付いた眞銀は、静かに距離を取る。

 日頃怒られている眞銀だからこそ楓が本気で怒りだす予兆というのを理解していた。

 故に察知することができたのだ。故に避難することができるのだ。

 そして、そんな楓が冷たい笑みを浮かべながら、お叱りの言葉を発しようとしたとき


 バタンッ!!


「わわっ!?」

「きゃっ!?」


 行き成り青年が倒れてしまった。


「ちょっ! ちょっとなに!? どうしたんですか!?」

「行き成り倒れちゃったよ!! どうしよう楓! これって行き倒れてやつだよね!?」

「行き倒れが、行き成り倒れるって意味じゃないですよ! 頭の悪い事言わないでください! それより大丈夫ですか!」


 酒を飲んでいたかと思えば気絶するように倒れる青年に二人は慌てて近寄った。

 もしかしたら急性アルコール中毒によるものかと。


「・・・・・・・・が~・・・・・・がぁ~~~」


 だが少女達の心配をよそに、青年は飲み干した酒瓶を抱き枕代わりにしながら高イビキをかいて寝ているだけであった。

 なんとも幸せそうな笑みを浮かべながら、酒臭い息を吐きながら寝入る青年に二人共安堵のため息を吐くも、人騒がせな青年になんとも言えない視線を向ける二人であった。


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