第12話~偽装~




*⋆꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ໒꒱⋆*





ルナはぼんやりとしながら、森の入口に座り込んでいました。



この場所にやって来ると、ケンタウロス達とお喋りを楽しみ、花の冠を作り、ただただ【楽しい】の中で過ごすのが常であったはずなのに、今のルナにはその感情は全く無く、心の中は何かに支配されたかの様に、ただひとつの色で塗り固められていました。



「ルナ!!!」



すると、宮殿の方向からアーシャとマリアがやってくるのが見えてきました。



ルナはほっとした表情をすると、小さく手を振って応えました。



「心配したわ、全然帰ってこないんだもの」



マリアはとても心配そうにルナの顔を下から覗き込むと、そのままルナの膝の上に頭を乗せて寝転がりました。



「ごめんなさい。なんだか眠ってしまったみたいなの」



ルナは申し訳なさそうにマリアのツートーンの髪の毛を優しく撫でると、次にアーシャの事を不安そうに見上げました。そんなルナの顔を見て、アーシャは安心させる笑顔で微笑んだのでした。



「大丈夫。ホワイトやパキラに言われて来たわけではないわ。だからさぁ早く戻りましょう?」



「本当に?良かった………」



ルナは安堵の表情を浮かべると、立ち上がったマリアに両手を引っ張られながら立ち上がりました。



そして3人とも、白く輝く2枚の羽をくゆらせると仲良く手を繋ぎながら宮殿へと戻っていったのでした。







「あ~退屈退屈。足を貰えたら、すぐ宮殿で任務につけると思ってたんだけどなぁ~。ここではずっと寝て起きての繰り返し。森の奥から出る事も許されず。これじゃあケンタウルスのままの方が自由だったかもしれない。はぁ~ルナが来てくれたらいいのになぁ~そうしたら退屈じゃないのに」



エンディは、2本の足をもて余す様な動きで、その場で軽やかにステップを踏むと、緑の絨毯をくるくると回転し、またそのまま両手両足を大きくひろげ、その場に倒れ込む様に寝そべりました。


そして、固く両目を瞑ったまま大きく息を吸い込むと、薄目を開けて瞬時に周囲の気配に目を配らせ、また固く目を瞑ったのでした。


(3………2………1………)



エンディは思考の波の上で、秒読みをゆっくりとすると、何かに気づき驚いた様子の振りをして、両目を大きく見開いてみせました。


エンディの予定通り、顔の上には立派な髭を蓄えた存在が覗き込んでいました。


(さて……ここからが僕の本番)



「うわぁあ!!」



エンディが驚きの声をわざとあげながら飛び起きると、ホワイトがエンディを見下ろす様に立っていました。



「一体何!?ホワイトだよね?何でここに?驚かさないでよ!」



「別に驚かしてなどいない」



ホワイトは、表情ひとつ変えずに言葉を続けました。



「ルナに会ったとか?話は聞いている」



「そうなの?ホワイトの第5夫人だったんだね。それで何?わざわざ怒りに来たの?言っておくけど、此処に来たのはルナ……いや、ルナ夫人だよ?俺が呼んだわけじゃない」



「あぁ知っている」



「ならいいんだけど。で?何の用?まさか詮索?可哀想な改良人間の相手を、優しい夫人がしてくれだだけ。ただそれだけだよ?」



「わかっている。ルナには大事な使命がある。だから、その邪魔をされては困るのだ」



「あぁ、ルナ夫人があちこちの紛争での魂を、一気に回収して、記憶だけを機械に植え付けてるんだっけ?それくらいの情報なら知ってるよ。しかし、あの弱々しそうな夫人が、そんな恐ろしい事をやってるなんてね。人って見かけによらないものだな」



すると、ホワイトはゆっくりと右手をエンディに翳しました。




「エンディ、お前の命はあと3日」




その瞬間、エンディの身体はみるみると強ばり、強い痛みが身体中を走ると、顔が苦悩で歪み始めました。



「な、何をしたの……ホワイト………」



「3日の猶予を与えたのは、最後の情け。この森の奥で最後の時間を、ひとりでゆっくりと過ごすといい」



「何……言って…………やっと人になれたんだ………今から宮殿に行って、ホワイト、あんたの為に力を注ごうって………張り切っていたんだ………」



「わかっている」


「ルナとはもう会わない………会わないからさ……」



「この星を護る為だ」



ホワイトはそう告げると、背を向けその場を立ち去ってしまいました。



身体中に走る激痛で、その場に崩れ落ちたエンディは肩で大きく息をしながら、森の入口を見つめ続けました。



「ルナ………助けて………ルナ………」



エンディはそうルナの名を呼みながら、その場に倒れ意識を失ったのでした。








倒れ込むエンディの姿を見守る森の木々は、ザワザワと不穏な空気の音色を発し始め、それはまるで、誰かへのメッセージの波の様でもありました。



「いつまで、倒れた振りをしてるの?エンディ」



気づけばそこには、パキラが腕を組みながら立っていました。



「はぁ~~やだやだ。僕、今からしようと思ってる事を、先に言われるのが1番!嫌いなのに……」


エンディは頬を膨らませながら起き上がると、その場に胡座をかいて座り込みました。



「まぁいいわ、これで予定通り。ホワイトは恐らくこの星を手放すはず。あともちゃんと上手くやってちょうだい」


「わかってる。ママンのベースを取り返すには、これしか方法がないって、パパンの記憶が言ってる」



「ジュピターのその繁殖という概念は、記憶も受け継ぐものなの?私にはさっぱり理解出来ないけれど」



「そうだよ。パパンとママンのデータ。その2本のデータを螺旋状にして、その間に橋をかける。そんなデザインが器とソウルを繋ぐ。即ちそれが【愛】なんだよ」



「やはり私には理解が出来ないわ。まぁそんな事はどうでもいいの、後の事はじゃあ任せたわ」



パキラはエンディの話に興味を示す事もなく、青い鳥へと変身すると、その場から飛び立っていきました。



その姿を目で追いながら、エンディはくすくすと可笑しそうに笑い始めました。



「やだなぁ~1番パキラが【愛】という概念に感染しているというのに。案外、自分自身が1番、自分の事には気づかないものなんだね。【愛】は【縛りたくなるもの】

だから、パキラのホワイトへの【愛】は、やはり【本当の愛】だよ」



エンディは楽しそうに微笑むと、またその場で軽やかにステップを踏みながら、緑の絨毯をくるくると回転し続けたのでした。




*⋆꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ໒꒱⋆*


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