第4話~魂~
「マリア、とてもご機嫌じゃないか。その髪は一体?」
真っ白い、とても丈の長い衣を身に纏ったホワイトは、長い髪と同じくらいの、その立派な髭を右手で撫でながら、マリアに尋ねました。
「ホワイトどう?びっくりした??」
マリアはあどけない少女の顔で、照れくさそうにすると、次の瞬間、椅子に座るホワイトの膝の上に飛び付く様に座りました。
「第4夫人は、無邪気すぎていけない……」
ホワイトは困った顔をしつつも、マリアが膝から落ちてしまわない様に体勢を整えました。
マリアはホワイトの膝の上で、嬉しさを隠しきれないかの様に、小さな足をバタバタとバタつかせた後、今度は後ろを振り返って、ホワイトの顔を覗きこみました。
「ルナに髪の毛を作ってもらったの!半分機械の身体になってしまって、頭が手つかずだったけど、これで見た目は昔と変わらないでしょ?」
ホワイトは、マリアの言葉になるほどと頷きながら、自分の目の前にあるマリアの髪の毛を、右手でそっと触れました。
「どうして、二色に?」
「だって……それだと、ホワイトにすぐ気づいてもらえるんだもん」
マリアの屈託のない言葉に、ホワイトは小さく頷くと、マリアをそっと膝から床におろしました。
「ルナ有り難う。マリアの為に」
ホワイトは、マリアとのやり取りを黙って見守っていたルナに向かって、感謝の言葉を送りました。
「いえ……それよりも、また居なくなっちゃってごめんなさい……」
ルナは、ホワイトの目を見る事はせず、そう恐縮しながら言いました。
ホワイトは、特にそれを咎める事はせず、次にマリアのそのツートンカラーの髪の毛を、優しく撫で始めました。
「マリアにこんな、髪の毛の贈り物をしてくれたルナを責めたりはしない。ところでマリア……、少しルナに大事な話がある。少し席を外してほしいのだが……」
「ルナと戦争の話?わかったわ………」
マリアは少し寂しそうにしながらも、夫人らしく一礼をすると、部屋から出ていきました。
ルナと部屋に二人きりとなったホワイトは、早速壁に近寄ると、手をかざしました。
すると壁面には、どこかの戦場の映像が流れ始めました。
「ここは………何処なんです?」
ルナが、壁に引き込まれるかの様に近づいていくと、映像の中では、馬に乗った兵士達が戦闘を繰り広げ、人々が殺しあう場面が次々と映し出されました。
「ここは、今繰り広げられている星間戦争の最前線。おそらく、どちらもほぼ生き残る事はないだろう。だから、その前に……」
「そんな……今から私にこの者達の、命の灯火を消せと……?」
「我が星はもう寿命が近い。星が延命する為には、莫大なエネルギーが必要なのだ」
「わかりました……でもお願いです。また、希望者には機械の身体を与えて下さい。その罪滅ぼしが成されなければ、私はこの任務を続けるうちにおかしくなってしまいそうで……」
ルナが顔を曇らせてそうお願いすると、ホワイトは「わかった」と短く答えて、また椅子に深く腰をかけました。
それを見届けたルナは、早速画面に向かって祈り始めました。身体から発する光が室内を照らし始めると、画面の向こう側の兵士達が突如苦しみだし、次々と地面に突っ伏した状態で、息絶えたのでした。
*
宮殿の夫人達専用のサロンに集まった、ルナとマリア以外の夫人達は、各々寛ぎながら過ごしていました。
「魂の回収は、無事終わったのかしら」
パキラが、指先に青い小鳥を止まらせながらそう呟くと、猫を抱きかかえたカイネが、そっと目を閉じました。
「えぇパキラ。見た所、残念だけど……私の出番は無さそうね」
「残念だなんて……星の事を考えたらバランス的にも一番良い状態になっているはずだわ、ルナがかなりの魂を回収して持ち帰ってくれてるし」
アーシャは、パキラとカイネ、ふたりの夫人の前に立つとそう訴えました。
「そのせいで、あんな機械達が増えに増えて……この宮殿は、機械の為の屋敷ではないはずなのだけど」
パキラは吐き捨てる様にそう語ると、カイネも全くだと言わんばかりに深く頷きました。
「それって、半分機械の身体になってしまった、第4夫人のマリア様も邪魔って言いたいの?」
夫人達が振り向くと、サロンの入口にはマリアが立っていました。
「まぁ素敵な髪の毛!!マリアとても似合っているわ!」
アーシャは興奮気味にそう叫びながらマリアに近づくと、色々な角度からマリアのツートンカラーの、そのロングヘアを繁々と見つめました。
「ルナがしてくれたの、可愛いでしょ??こんなに可愛い私を馬鹿にするなんて、いくら夫人達でも許さないんだから!!」
ツートンカラーの髪の毛を大きく揺らしながら、マリアがそう叫ぶ様に食ってかかると、さすがの第1夫人と第3夫人もオロオロと、慌て始めました。
「そんな事は言ってはいない。マリアが半分機械の身体になった事は、我々が一番申し訳なく思っているのだから……なぁカイネ?」
「えぇパキラ、その通りだわ。皆の願いはこの星でずっと過ごせる事なのだから」
その言葉を満足気に聞いていたマリアは、得意気に「わかってればいいのよ」と、捨て台詞を吐くと、右手の人差し指で鼻をこすってみせたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます