第2話~夫人達~


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「また、ここも失敗………」




 ホワイトは、真っ暗な部屋の眼前に拡がる、壁一面に映し出された映像を凝視しながら、深いため息をつきました。



「何を浮かない顔をされているのです?」



 室内におもむろに入ってきた女性は、両手に長毛の白い猫を抱きかかえながら、ホワイトの傍に近づいていきました。



「いや、なかなかに色々上手くいかないものだと、そう思っていただけだ。それで?何か私に用が?」



「いえ、特には何も……私の出番がなかなか来ないものですから、退屈で退屈で」



 その女性は微笑みをたたえながら猫をそっと足元におろすと、椅子に腰をかけました。



「お前の出番は、出来たら無いにこしたことはない。星の全てを白紙に戻すわけだからね、カイネ」



 カイネと呼ばれた女性は、それは残念という素振りをしてみせると、肘掛けに腕を置いて頬杖をつきました。



 カイネはホワイトの第3夫人で、黒色の肩までのストレートの髪は、褐色の肌にとてもよく映えました。



「ところでルナは何処に行ったのです?ルナは私と違って今が一番忙しい時でしょうに……まさか、また外の世界に無断で行ってるのでは?」



「大丈夫だと私が言ったのだ、パキラといい、そう目くじらを立てなくとも……」



「そんな事を言っているから、また失敗を繰り返すのでしょう?私の”ちから”と交換してくれたらいいものを。それもこれも全部あなたのせい」



 カイネは無表情でそう捨て台詞を吐くと、立ち上がり、そして白猫を両手で抱きかかえると、頭をゆっくりと右手で撫でながら、外へと出ていきました。



 ホワイトは、その後ろ姿を暫く見つめた後、また目の前の映像に視線を移したのでした。





 *




 ルナとアーシャが、大きなその白い羽の動きを緩やかにおさめながら、宮殿の入口に聳える大きな柱の陰に着地をすると、宮殿の奥から、小さな少女が走ってくる所でありました。



「もうー!!ずっと探してたのよー!!」



 幼いあどけない口調のその少女は、怒りながらふたりに向かってそう声を荒げました。



「だってマリアは寝ていたものだから……ちゃんと部屋は覗いたのよ?」



 アーシャがそう言い訳をすると、マリアと呼ばれたその少女は、怒りがおさまらない様子で更に噛みついてきました。



「この時間にエネルギーを注入するのは、アーシャならわかってるじゃない!!ルナの所に行く時は、私も行くってちゃんと言っておいたはずよ!!!」



「それはそうだけど……パキラの青い鳥がルナの所に向かって行ったのが見えたんですもの………だから、慌ててしまったの、ごめんなさいね」



「パキラが………?そ、そう……なら、仕方ないわね、許してあげる……」



 アーシャの話を聞いて、急に口調がトーンダウンしたマリアは、今度は上目遣いでルナに視線を向けました。



「マリアごめんなさい。今度は一緒に外へお散歩に行きましょうね」


 ルナは、持ってきた花の冠を取りだすと、マリアの頭にそれをそっと載せました。



「うん!!!絶対よ!?」


 マリアはその花の冠に満足気に微笑みながら、楽しそうに無邪気に、何度もその場で飛び跳ねました。



 その姿を微笑みながら、アーシャとルナが見守っていると、何処からか青い鳥が現れて、マリアの頭の上に、舞い降りる様にとまりました。



「うわぁーー!!」


 マリアが、最大限の驚きの声をあげると、宮殿の柱の陰から、パキラが悠然と現れました。



「マリア、第4夫人ともあろうものが、落ち着きのない……」



「落ち着きがないのは、プログラムのせい!私のせいではないわ!!」



 マリアがそう、食って掛かるのを、ルナとアーシャはおろおろとしながら、止めに入りました。



「確かに、それは一理ある」



 パキラは短くそれだけ答えると、今度はルナに視線を移しました。



「ルナ、一体何処へ行っていたのです。早く、ホワイトの元へと戻りなさい」



「行かないと………駄目??」



 ルナは怯える様に、恐る恐る、パキラに尋ねました。



「お前の我儘で振り回される、ホワイトの身にもなりなさい。第5夫人となったからには、きちんと役目を果たすのです、さぁ、早く」



「私はやりたくないわ……私は、育む"ちから"が欲しかったのに……それなのに……存在を消滅する役目なんて……辛すぎる……」



「その為にお前は生み出された、ただそれだけの事。いいから、早く」



 パキラの強い圧にしぶしぶ応じたルナは、宮殿の中へと向かう事にしました。



「待ってルナ!!第4夫人の私も一緒に行ってあげるー!!」


 マリアがそう言って、ルナの背中に飛び付くと、ルナは嬉しそうに、マリアの小さな左手を握りしめました。



「じゃあ一緒に行きましょう」



 ルナの腰までかかる、金髪の長い髪が歩く度に、左右に小刻みに揺られ、そして、隣を共に進むマリアの透けた後頭部からは、カラフルに点滅する機器の反射光が、頭上に飾られた花のかんむりを眩く照らしていました。


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