ルナ

豊 海人

第1話~オリオン~



その星は、地球から遠く離れた場所にあり

地球の人々は、その星と周囲の星を連ねた形を【オリオン座】と称しておりました。


これからお話するそれは

その中にある、ひとつの星の物語








「星間戦争が激化してるらしいね、ルナ」




無機質なクリーム色の空の下に拡がる森の木々の中で、ケンタウルスのシャドはリンゴの木に右手をかけると、左手で乱暴にリンゴの実をもぎ取り、がぶりとかぶりつきました。




「えぇそうね……この場所はあまりに平和で全く実感は沸かないけれど」



センター分けの金色のウェーブの髪、地面につく程の白のロングドレスに身を包んだルナは、おどけながら、シャドに微笑みかけました。



「全く……ちゃんとホワイトに早くやっつけちゃうように伝えてくれよ?ルナ夫人」



「やめてよ、私には立場的にそんな事は不可能だもの」



急に気持ちが沈みこんだルナを見て、少し言いすぎたかなと反省したシャドは、前足を華麗に上げて方向転換をすると、両手でリンゴをもぎとりルナへと差し出しました。



「ごめん言いすぎた。ルナはホワイトの第5夫人だけど、その辺りは平等だって聞いてるよ?」


「それはどこの情報なの?」


ルナが笑いながらそう問いかけると、シャドは前足を蹴りあげる様に後ろ足のみで立って、次はメロディを奏でるかの様に、高らかに足踏みをしてみせました。



「勿論、ケンタウルス仲間の中でさ」



そして、そう一言を言い放つと、広がる草原を駆けていってしまいました。



「呑気で本当に羨ましいったら」



ルナはひとりきりになると、今にも落ちてきそうなクリーム色の空を見つめて、そしてゆっくりと目を閉じたのでした。






「マタ、ルナハドコヘイッタノカシラ」


「ホント、サッキマデココニイタハズナノニ」



天井がとても高いその広間では、四角い顔をしたメタルのロボットと、ドレスに身を包んだ女性の姿であるものの、足だけは歯車の形をしたロボットが数体、何かに追われているかのごとく、目まぐるしく、駆け回っていました。




「アア、イソガシイイソガシイ」


「ルナノセイデイソガシイッタラ」


ロボット達は口々に、そう呟きながら、更に広間の中を、忙しく駆け回り続けました。









「報告致します!敵はエネルギーを既に飽和状態に持ち込んだとの事。このままでは、我が星に多大な影響が訪れてしまうと思われます!」



短髪の白い衣に身を包んだ兵士が、跪きながら玉座に座るホワイトへ、そう報告をしました。



ホワイトはゆっくりため息をつきながら立ち上がると、わかったという様に頭を縦に振ったのでした。







「ルナは何処にいるの?あなた」


ホワイトにそう話かけたのは、第1夫人のパキラでした。


「おそらく、ケンタウルスの森であろう。そんなに目くじらを立てずとも」


「この状況下で何をのほほんと。あなたはルナに兎に角、甘過ぎるのです」


パキラはそう言うと、右手と左手をふわりと空中で交差させました。


すると、羽をはためかせた青い小鳥が現れ、暫くその場で羽ばたいた後、パキラの伸ばした右手の指の上で、羽を休ませ始めました。


「お前、今すぐルナを呼び戻してきておくれ」


すると青い小鳥は囀ずりながら羽をひろげ、外へと羽ばたいていったのでした。


ホワイトは困り顔でそれを見つめていましたが、特にそれ以上何も言う事なく、椅子に腰をおろしたのでした。









「ルナ!!!」



ルナが声をいきなりかけられた、その声の方角に

目をやると、第2夫人のアーシャが背中の重厚な

2枚の白い羽を羽ばたかせ、こちらに向かってきている所でした。



「アーシャどうしたの?」


ルナは作りはじめていた、作り立ての花の冠を両手に持つと、その場に立ち上がり、アーシャの元へと駆け寄っていきました。



アーシャはルナの目の前に舞い降りると、にっこりと微笑み、その花の冠をルナの手から優しく奪い取ると、ルナの頭にそっと乗せました。



「よく似合っているわルナ、それよりも宮殿では

ルナがまた居なくなったと大騒ぎになってる、

さぁ一緒に戻りましょう?」



白い羽を背中の中に吸い込む様に閉まって、人の姿になったアーシャは、ルナにそう促しました。


「行きたくないわ………またきっと、人間を消さなくてはいけないのでしょう?」



ルナは小さく身体を震わせながら、涙を浮かべました。


そんなルナの様子を心配そうにアーシャが見つめていると、遠くから青い小鳥が此方に向かって飛んできました。


「ほら、第1夫人がお怒りよルナ。それに色々はルナしか出来ない事だもの、ね?拗ねてないで一緒に戻りましょう?」


ルナは諦めた表情をひとつすると、背中から大きな羽を生やし、アーシャと共に飛び立ったのでした。




*⋆꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ໒꒱⋆*


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る