ルナ
豊 海人
第1話~オリオン~
その星は、地球から遠く離れた場所にあり
地球の人々は、その星と周囲の星を連ねた形を【オリオン座】と称しておりました。
これからお話するそれは
その中にある、ひとつの星の物語
*
「星間戦争が激化してるらしいね、ルナ」
無機質なクリーム色の空の下に拡がる森の木々の中で、ケンタウルスのシャドはリンゴの木に右手をかけると、左手で乱暴にリンゴの実をもぎ取り、がぶりとかぶりつきました。
「えぇそうね……この場所はあまりに平和で全く実感は沸かないけれど」
センター分けの金色のウェーブの髪、地面につく程の白のロングドレスに身を包んだルナは、おどけながら、シャドに微笑みかけました。
「全く……ちゃんとホワイトに早くやっつけちゃうように伝えてくれよ?ルナ夫人」
「やめてよ、私には立場的にそんな事は不可能だもの」
急に気持ちが沈みこんだルナを見て、少し言いすぎたかなと反省したシャドは、前足を華麗に上げて方向転換をすると、両手でリンゴをもぎとりルナへと差し出しました。
「ごめん言いすぎた。ルナはホワイトの第5夫人だけど、その辺りは平等だって聞いてるよ?」
「それはどこの情報なの?」
ルナが笑いながらそう問いかけると、シャドは前足を蹴りあげる様に後ろ足のみで立って、次はメロディを奏でるかの様に、高らかに足踏みをしてみせました。
「勿論、ケンタウルス仲間の中でさ」
そして、そう一言を言い放つと、広がる草原を駆けていってしまいました。
「呑気で本当に羨ましいったら」
ルナはひとりきりになると、今にも落ちてきそうなクリーム色の空を見つめて、そしてゆっくりと目を閉じたのでした。
*
「マタ、ルナハドコヘイッタノカシラ」
「ホント、サッキマデココニイタハズナノニ」
天井がとても高いその広間では、四角い顔をしたメタルのロボットと、ドレスに身を包んだ女性の姿であるものの、足だけは歯車の形をしたロボットが数体、何かに追われているかのごとく、目まぐるしく、駆け回っていました。
「アア、イソガシイイソガシイ」
「ルナノセイデイソガシイッタラ」
ロボット達は口々に、そう呟きながら、更に広間の中を、忙しく駆け回り続けました。
*
「報告致します!敵はエネルギーを既に飽和状態に持ち込んだとの事。このままでは、我が星に多大な影響が訪れてしまうと思われます!」
短髪の白い衣に身を包んだ兵士が、跪きながら玉座に座るホワイトへ、そう報告をしました。
ホワイトはゆっくりため息をつきながら立ち上がると、わかったという様に頭を縦に振ったのでした。
*
「ルナは何処にいるの?あなた」
ホワイトにそう話かけたのは、第1夫人のパキラでした。
「おそらく、ケンタウルスの森であろう。そんなに目くじらを立てずとも」
「この状況下で何をのほほんと。あなたはルナに兎に角、甘過ぎるのです」
パキラはそう言うと、右手と左手をふわりと空中で交差させました。
すると、羽をはためかせた青い小鳥が現れ、暫くその場で羽ばたいた後、パキラの伸ばした右手の指の上で、羽を休ませ始めました。
「お前、今すぐルナを呼び戻してきておくれ」
すると青い小鳥は囀ずりながら羽をひろげ、外へと羽ばたいていったのでした。
ホワイトは困り顔でそれを見つめていましたが、特にそれ以上何も言う事なく、椅子に腰をおろしたのでした。
*
「ルナ!!!」
ルナが声をいきなりかけられた、その声の方角に
目をやると、第2夫人のアーシャが背中の重厚な
2枚の白い羽を羽ばたかせ、こちらに向かってきている所でした。
「アーシャどうしたの?」
ルナは作りはじめていた、作り立ての花の冠を両手に持つと、その場に立ち上がり、アーシャの元へと駆け寄っていきました。
アーシャはルナの目の前に舞い降りると、にっこりと微笑み、その花の冠をルナの手から優しく奪い取ると、ルナの頭にそっと乗せました。
「よく似合っているわルナ、それよりも宮殿では
ルナがまた居なくなったと大騒ぎになってる、
さぁ一緒に戻りましょう?」
白い羽を背中の中に吸い込む様に閉まって、人の姿になったアーシャは、ルナにそう促しました。
「行きたくないわ………またきっと、人間を消さなくてはいけないのでしょう?」
ルナは小さく身体を震わせながら、涙を浮かべました。
そんなルナの様子を心配そうにアーシャが見つめていると、遠くから青い小鳥が此方に向かって飛んできました。
「ほら、第1夫人がお怒りよルナ。それに色々はルナしか出来ない事だもの、ね?拗ねてないで一緒に戻りましょう?」
ルナは諦めた表情をひとつすると、背中から大きな羽を生やし、アーシャと共に飛び立ったのでした。
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