第九章~背徳感と好奇心

 いくら亡くなった人のモノだとはいえ、他人様の日記を読むなんて・・・。

 という気持ちは、勿論ある。

 あるのだけれど、止められないのが人間の性というモノだ。

 後ろめたい気持ちよりも、欲が勝る。

 その時、人は背徳感に苛まれつつも罪を犯してしまう。


 天井とにらめっこしながらそう自分に言い聞かせているうちに、下からまどかの寝息が聞こえてきた。

(シメシメ)

 人生で絶対に使う予定の無かったその台詞を、よもや一晩のうちに二回も使用する事になろうとは。


 あたしは、そっと下を覗き込む。

(・・・寝た寝た)

 まどかが目を閉じているのをしっかりと確認する。

 あたしはすぐさまうつ伏せになり、右手を枕の下に滑り込ませ手帳を取り出した。

 ポケットをまさぐり鍵を出し、手帳の鍵穴に入れてゆっくりと回す。

 カチャッ、とそれは小さな音を立てた。


 分厚い表紙を開くと、線も何もない白紙のページがあった。

 それを捲ると、一番右端に日付が書かれてあった。

 やっぱりそれは日記帳だった。



【3月3日(火) 晴のち雨


 今日は18回目の誕生日だった。

 いつもの様に家族がお祝いをしてくれた。今年もありがとう♡

 お母さんとお父さんからは花柄の黄色いワンピース、お姉ちゃんからはこの日記帳をもらったよ。だから、今日から日記を書く事にしたんだけど・・・毎日書けるかなぁ?】


(あぁ・・・この手帳、お母さんからの誕プレだったのね~なかなかやるじゃんっ!)


日記は長さに関係無く、一日分を一頁に書くというスタイルの様だった。

 


【3月7日(土) 晴

 

 今日は卒業式だった。

 体調が良かったので参列できたのがとても嬉しかった。

 お父さん、お母さん、お姉ちゃん、全員が来てくれたのも嬉しかった。

 在校生が左右に並んで作ってくれたアーチをくぐる時は、一美かずみが車椅子を押してくれた。一美には3年間色々とお世話になったなぁ。元気になったら何かお礼をしなきゃって思ってる。

 門を出たところで一条君と擦れ違った。一条君は私の事なんてきっと忘れちゃうんだろうな・・・悲しいな。最後、何かお話したかったな。】

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