第八章~挙動不審

「髪、めっちゃいいじゃん」

 部屋に戻ると、二段ベッドの下段に横になってケータイで動画を観ているまどかに褒められた。

「ありがと」

(早く日記が読みたい!)という気持ちを抑え、あたしは淡々と返す。

「兄ちゃんってさぁ、錦の髪、使うよね」

「何?・・・切って欲しいの?」

「偶にはね。無料でしょ?」

「まどかの髪は失敗したら怖いから切れないらしいよ?」

「失敗しても伸びるから、別にいいのに~」

 言いながら彼女は、停止していた動画を再開する。

(シメシメ)

 この台詞をこの年令としになって本気で遣う日が訪れようとは・・・苦笑してしまう。

(さて・・・日記帳をどうやってベッドの上に移動させようか・・・)

 デスクに腰掛け、考える。

(鍵はパジャマのポケットに忍ばせるとして・・・問題は、本体)

 頭を抱えていると、後ろで気配がした。

 まどかがベッドから出てきたところだった。

「どこ行くの?」

「え?・・・トイレだけど?」

 まどかはポカンとした顔でそう答えた。

「あぁ・・・あぁ~~~トイレねっ!」

 顔が引き攣るのが自分でも判った。

「・・・変な錦」

 まどかはそう言い残して、部屋を出て行った。

 ドアが閉まる音を確認し、急いで引き出しを開ける。

 そして、奥の方に放り込んだソレを鷲掴みにし、急いで枕の下に隠す。

 更に、間髪入れず例の木箱から巾着を取り出し、その中の鍵をポケットに入れる。

 そして、最後に本棚からテキトーに漫画を一冊取り出すと、それを持ってベッドの上に上がり布団に潜り込んだ。

 丁度そこへまどかが戻って来た。

「もう寝るの?なら、電気消すね」

 彼女はそういい、壁のスイッチに手を伸ばした。

「待ってっ!」

「えぇ?」

 大声を出してしまったからか、まどかは怪訝な表情でベッドの上段を凝視した。

「あ、ごめんごめん。今からちょっと漫画読むからさ」

「あ、そうなの?・・・あたしは寝るね。おやすみ~」

 そう言うと彼女の姿はベッドの下へと消えて行った。

「おやすみ」

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