第三章~朽葉色のタンス

「よーっし!」

 俄然やる気になったあたしは腕まくりをし、カーテンを開き、窓を開けた。

 途端、秋の涼しい風と一緒にやはり金木犀の香りが流れ込んで来た。

 一呼吸したあたしは、部屋の隅に置かれた昭和感漂う朽葉色くちばいろの古めかしいタンスの前に立った。それはあたしより二十センチ程高く、幅は一メートル程であろうか・・・上部が片開きの扉、下部が三段分の引き出しになっていた。

 

 ずあたしは、右手で取っ手を掴み扉を開けた。

 中には、夏と冬用のセーラー服の上下と、写真で見た黄色い小花のワンピース、それからベージュ色のコートだけがハンガーに掛けて吊るされてあった。

 祖母は「アルバム以外は要らない」と言っていたが少し考えて、黄色のワンピースは「要る物」だと判断しそのままにし、それ以外の物をポリ袋に入れた。

 

 次に一番上段の引き出しを開けた。鼻孔から、防虫剤のツンとした臭いが侵入してくるのが判った。

 そこは、右の方にハンカチやタオル類、真ん中が靴下で左の方が下着類と分けられ、それらはきちんと整頓されて並べられてあった。その段に関してはあたしは何も考えず、中の物は全てポリ袋に放り込んでいった。

 

 次に、上から二段目の引き出しに移った。

 その全てがパジャマだった。季節通して二十着弱はあっただろうか。縞模様、水玉模様、花模様・・・色んな色柄のパジャマが並んでいたけれど、共通していたのは全体的にパステルカラーだった事。そこに、ふんわりと優し気な花野子さんの性格を感じ取る事ができた。

 あたしは躊躇せず、全て袋に詰め込んだ。

 

 最後は、三段目だ。

 開けるとそこには、綺麗に畳まれた数枚のTシャツとセーター、そして僅かな数のズボンとスカートが、夏冬で左右に分けて置かれていた。

 この段の衣類についても、やはり迷う事なくポリ袋に入れていった。


(これが、二十才の花野子さんの衣類の全てだったんだ・・・)

 そんな事を思いながらあたしは、満帆まんぱんになった七十リットルふたつ分のポリ袋の口をきつく締めた。

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