第四章~鍵付きの日記帳
タンスの片付けを済ませたあたしは、次に押し入れに取り掛かった。
流石に少しだけ、古臭い匂いが漂ってきた。
ここには、上段に布団が二組、そして下段に衣装ケースが三つ置かれているだけだった。と言っても、衣装ケースの中身は衣類ではなかった。
一つ目のケースには、学生時代に学校で使っていたと思われるリコーダーや絵の具道具や裁縫道具等が収められていた。当時学校で制作したと思われる絵画や版画等もくるくるっと輪ゴムで巻いて丁寧に収められていた。
あたしは、自画像と思われる人物の水彩画だけを残し、他の物は全て「要らない物」の袋に仕分けをした。
二つ目のケースには、小説や漫画がぎっしりと並べて入れられていた。部屋の本棚にも、書籍が詰まっている。読書が趣味だったというのが、見て取れた。
これは紐で結んだ方がいいと判断し、一旦放置した。
そして、三つ目のケースに入れられていたのは、プライベートな物の様だった。文具やレターセット、「園田 花野子様」と書かれた消印のある何通かの手紙、櫛や髪留め、スケッチブック、トランプやぬいぐるみ等が、無造作に詰め込まれていた。
と、その中に、鍵付きの手帳を発見した。ピンク地で、下半分に紅い花模様・・・ガーベラだろうか?があしらわれた、可愛らしい手帳だった。
(・・・日記?)
あたしはそれを手に取ってみたが、鍵が無いので開く事はできなかった。
少し考えてからあたしは、「要る物」の袋の中に自画像と一緒にそれも入れた。
引き続き最後のケースの仕分けをしていたら、葡萄色の小さな木箱が出てきた。
蓋を開けると、それはオルゴールだった。曲名は判らなかったが、聞き覚えのある有名な曲だった。
箱の中は左右に分かれていて、左側がオルゴール、右側は小物入れになっていた。
小物入れの中には、薄桃色の小さな巾着袋が入れてあるだけだった。取り上げ、手触りだけで確認すると、硬い何かが入っているのが判った。
開くと、鍵がひとつだけ入れてあった。
瞬間、ピンときた。
鍵付き手帳の、鍵だ。
きっと、そうに違いない。
あたしは、「要る物」の袋の中から日記帳を取り出し、その鍵穴に鍵を差し込み、そして、ゆっくりと右に回した。
カチャッと音を立て、帯の部分が緩んだのが判った。
「開いた!」
(いけない)と思いつつも、あたしはそっとページの真ん中辺りを開いた。
そこには、整った綺麗な藍色の文字が整列していた。
その筆跡だけで、花野子さんの丁寧で几帳面な性格が窺えた。
とりあえずあたしはもう一度日記に鍵を掛け直し、鍵を巾着に戻した。そして、巾着を木箱に戻し、それらを「要る物」の袋に入れた。
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