第五章~秘密
母は、祖父母の衣類や食器類を。
兄は、祖父に頼まれた物を。
あたしは、花野子さんの私物を。
それぞれが車に積み込み終えた時には、夕刻になっていた。
不要な物を詰め込んだポリ袋の山は、その日はとりあえずそのまま祖父母宅に残す事にして、必要な物だけを積み込んだ。
行きは後部座席を一人悠々と占領できたのだけれど、帰りは隣にテレビが鎮座していて、居心地が悪かった。
兄がブレーキを踏む度に、あたしは右腕でテレビが転倒するのを阻止しなければならなかった。
液晶画面は一応バスタオルで包まれていたけれど、それだけでは心もとない。
自宅に着いた時には、外はもう真っ暗になっていた。
あたし達はとりあえず、持って帰って来た物を無造作に玄関ホールに置くと、身一つでリビングに向かった。
扉を開けると、まどかが作ったカレーの香ばしい匂いが嗅覚をついた。
居残り組の四人は夕飯は済ませたらしく、リビングでそれぞれが好きな事をして過ごしていた。
「テレビは持って来てくれたかい?」
父と将棋をしていた祖父が振り返り、誰に言うともなしに訊いてきた。
「うん。ご飯済んだら和室に設置するから、待って」
兄がそう応えると、祖父は安心した様子で「ありがとう」微笑んだ。
あたし達三人はダイニングテーブルに着き、まどかが用意してくれたカレーでお腹を満たした。
一仕事した後の食事は、各段に美味しかった。
兄はおかわりをしたが一番に食べ終わり、父に声を掛け、テレビの設置の為に姿を消した。
「錦は、衣類と花野子の物を和室に運んでくれる?」
「了解~」
母にそう言われたあたしは、食べ終えたお皿とコップをシンクに移動させるとそのまま玄関に向かった。
そして、アルバムやワンピースや自画像を入れたポリ袋を持ち上げた瞬間、ハッとした。
( そうだっ!日記帳!)
持ち上げた袋を一旦元に戻し、辺りを見回す。
誰もいない。
あたしは縛った袋の口を解き、中を漁った。
日記帳と葡萄色の小箱・・・袋から取り出したそれをあたしは急いで二階の自室に持って入り、デスクの一番下の深い引き出しの奥に放り込んだ。
勝手に秘密を作っておいて、勝手に心拍数を上げている自分が可笑しくて滑稽に思えた。
玄関に戻ったあたしは袋の口を締め直し、それと母が詰めた祖父母の衣類の入ったポリ袋を何度かに分けて和室に移動させた。
和室では、父と兄がテレビ番組の設定をしながら何やらごちゃごちゃとやり合っていた。
触らぬ神に祟りなし・・・で、あたしはそーっとその場を離れた。
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