第一章~オムライスと花火
同居開始から一週間が経った、日曜の午後。
母と兄とあたしは、兄の車で祖父母宅へと向かった。
後部座席を陣取ったあたしはイヤホンで音楽を聴きながら、オレンジや黄に彩られた秋の山々を眺めつつその道中を愉しんだ。
車で小一時間の距離で、ドライブには丁度よかった。
玄関を入ると、いつもなら奥の部屋から聞こえてくる大音量のテレビの音が、当たり前だが今日は無かった。
シーンと静まり返った空間。
あたし達を迎え入れてくれる祖母の声も、無い。
祖父母との同居は嫌ではなかったが、この場所に祖父母がいない事が何故だかとても淋しく感じられた。
母と大喧嘩した中二の夏休み、あたしは真っ先にここへ避難した。
夕飯に祖母がオムライスを出してくれたのは、あたしの大好物だったから。
夜には、祖父が準備してくれた花火を三人で愉しんだ。
もしまた母とやり合ってしまう事があるとしたら、あたしはどこに逃げればいいんだろう・・・それが今やここでない事だけは、明確だった。
玄関を入ると、何とも言えないもやっとした湿った空気が身体を取り巻いた。
とりあえずあたしは換気をする為に、居間に向かった。
部屋に入り掃き出し窓を開け放つと、裏庭に植えられた金木犀の甘ったるい香りがふわりと屋内に流れ込んで来た。
そこからは、別行動だった。
母は、祖父母の衣類や食器の整理を。
兄は、祖父母に頼まれた家電や日用品等を。
あたしは、
それぞれが分担で作業した。
花野子さん、とは。
病気で亡くなった母の妹で、二十才という若さでこの世を去ったという。
写真でしか見た事ないが、とても華奢で綺麗な人だった。
華奢なのは、病気のせいかも知れなかった。
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