「テレフォンショッピング」におそわれた!

「うおーーーすげぇすげぇすげぇ!!」


 ぼくは興奮していた。まだテレフォンショッピングが始まる前だというのに、大好きすぎてもうテレフォンショッピングが映っているところを想像してそれだけで興奮しているのだった。非常に恥ずかしい。


 テレビ画面にbgmと共に「ビジョンショッピング」と名付けられたテレフォンショッピングのタイトルが映った。

「ああ、もうだめだ。幸せすぎる…」


 ぼくはあまりにも興奮しすぎて、クスリ中毒者が効果が切れたような感じにヘロっていた。


「みなさまこんにちは、ビジョンショッピングのお時間です」

 ぼくは気を失った。興奮が上限を超えてしまった。



 いつまで気を失っていたのだろうか?いつの間にか荷物がたくさん届いていた。

 カメラに炊飯器、食器にテレビ、電動自転車にオーブントースター。さらには恐竜の着ぐるみまで。


 な、なんだこれは!!

 すぐさまビジョンショッピングに電話を入れた。


「はい、こちらビジョンショッピングです。」

「おい、どうなっているんだ!購入してもない商品が大量に届いたぞ!?」


「確認致しますので、お名前と電話番号おうかがいしてもよろしいでしょうか?」

「名前はビジョンショッピング…ん?」


 おかしい。なにかおかしい。ぼくの名前、なんだっけ…?


「もしもし、聞こえますでしょうか?」

「あ、すみません、えっとですから、ぼくの名前はビジョン…ビジョンショッピング」

「えっとすいません、そちら弊社の名前なのですが?」

「ああいやだからその…」


 どうしたらいいのか分からなかった。


「すみません、また電話してもよろしいでしょうか?」

「はいかしこまりました。」


 電話を切ると、すぐに病院へ行く準備をした。


 ふと、診察券に自分の名前が書いてあるじゃないかと思った。

 しかし、診察券には「ビジョンショッピング」としか書かれていなかった

「うわああああああっっっっっ!!!!」


 もうわけがわからなくなっていた。ぼくはあの時、テレフォンショッピングにおそわれたのだろうか?そうだとしてもなぜ?どのように?


 ひとまず病院へと走った。とりあえず名前はビジョンショッピングでいい。

 診察券を出すと、受付の人は不思議な顔をしていた。事情を話す。


「それで、お名前は分からないのですか?」

「はい、ビジョンショッピングとしか思い出せません」

「ひとまず腰を掛けてお待ち下さい」


 待合室では吐き気が常にあった。


 しばらくして診療室に呼び出された。

 ぼくは早口で、しかしたどたどしい口調で、起こっていることを伝えた。

「えっと、テレフォンショッピング見てたら気絶して、そのまま自分の名前がテレフォンショッピングに…ゲホッゲホッ」

「まあまあ落ち着いて。とりあえずMRI撮ってみましょう。なにか脳におかしな点があるかもしれません」

「ありがとうございます!」


 ぼくはMRIを撮った。


 医師からの結果を待っている間、頭がはち切れそうになっていた。このまま頭が破裂するのではないかというくらいに頭が痛い。そして気持ち悪い。


 ようやく再び診療室に入った。

 そこには医者が4人も集まっていて、皆すごく神妙な顔をしていた。

「落ち着いて聞いてください。あなたの脳に『ビジョンショッピング』という文字が浮き出ています。」

「ん?」


 ただでさえ頭痛で応答が難しいのに、意味不明な事まで言われてますます何言ってるんだかわからない。


「これを見てください」

 医者に言われるがままにMRI画像を見てみると、なんと、白く浮き出て「ビジョンショッピング」と書かれているではないか!


「今すぐ手術が必要だ。いいかな?」

「はい…」


 すぐさまベッドに横になり、麻酔をかけられて手術をされた。


 目を覚ますと「だいじょうぶですか」と聞こえてくる。ああ、ようやく治った…イタタタ!


「痛い、ああっ!」

「だいじょうぶですか!?」

 看護師が叫ぶ。

「しばらく様子見をしよう」

 医者にそう言われ、ぼくはそのまま横になった。


 翌朝。まだ頭痛がする。

「すみません、やっぱりまだ頭痛が」

「よし、再びMRIを撮ろう」


 そうして撮った画像に医者もぼくも、その場に居たみんなが驚いた。

 なんと、「ビジョンショッピング」の文字が再び浮き出ているではないか!


「先生!どういうことなんですか!?昨日手術で治してくれたんですよね!?」

「そうだ。もちろんだ。手術中に撮影した画像を見てもらったら分かるように、明らかに治した。」


「じゃあ、なんで…」

「わからない」


 ぼくは頭痛のまま家に帰った。



 家には母ちゃんが居た。ぼくを心配してくれて来たのだろうか?いや、おかしい。ぼくは母ちゃんに一度も連絡していない。なのになぜ?


「あらビジョンショッピングおかえり」

「ん?」


 ああそうか、ぼくの名前はやはりビジョンショッピングだったんだ…。いや、やはりなにかおかしい。


「ねえ、ぼくの名前って何?」

「何言ってんのよ、ビジョンショッピングでしょ」


 どう考えてもおかしい。ビジョンショッピングはテレフォンショッピング会社の名前ではないか?


「ねえ、なんでぼくの名前がビジョンショッピングってことになってるの?」

「なってるのって?もとからあなたの名前はビジョンショッピングよ。昔つかってた学生証でも見てみたら?」


 そう言われて見てみると、たしかに「ビジョンショッピング」と書かれていた。


「うーん、なんか変だ」

「何言ってんのよ、名付けたのはわたしよ。信用してちょうだい」


 というか、そもそもなんで母ちゃんが家に来ているんだ?

 もんもんとしてスマホを見てみると、知人のアツシくんからメッセージが届いていた。


「カズキ、今日飯食いに行かねえか?」

 ん?カズキ?なんか聞き覚えがあるな。


 そうだ、ぼくの名前だった、ような気がする。

 気がするというだけだけど、妙に納得する名前だ。「ビジョンショッピング」なんて名前、違和感でしかない。


「ねえ」顔を上げて母ちゃんのほうを見る「ぼくの名前、『カズキ』じゃない?」

「何言ってんのよあんた、ビジョンショッピングよ。昔からそう呼ばれていたじゃない」

「でもなんか、違和感でしかないんだけど…」

「あんた今日、なんかおかしいわね?どうかしたの?」

「え、いや」それ以上口は動かなかった。ただ呆然とするしかなかった。


 すると「ピンポーン」と玄関のベルが鳴った。

 出てみると「カーズキっ」と呼びかける男の姿があった。


「あ、マサトくん」

「アツシから連絡行ってなかったか?もう呼びに来ちゃったよ」

「ねえ、僕の名前って何?」

「はぁ?カズキだろ。それ以外に何があるっていうんだ?」

「やっぱりそうだよね、うん、やっぱりぼくカズキだよ」

「わけわからんこと言ってねえで、今日飯行けるの?行けないの?」

「ああ、行くよ、ちょっと待ってて」

「じゃあ駅前の時計台で待ってるぜ」


 そういうと男はすかすかと歩いて駅の方角へと行ってしまった。


「キエーッ!!!」

 後ろを振り返ると、母ちゃんが包丁を持って襲ってきた!


 あわてて腕を捕まえる。

「母ちゃん、なにしてるんだよ!?」

「くそっ、認知機能を変えただけで記憶を改ざんするのを忘れていた!」

「え、なんのこと…」

「うるさい!お前はこのままここで殺されろ!」

 ああっ、もうだめだ…!


 すると急に、テレビのスイッチが入った。真っ白な画面であった。

 母ちゃんはそのままテレビの中へと吸い込まれていった。そして、あの「ビジョンショッピング」の文字が映し出された。




 後日、脳の検査に行くと、何も異常は見つからなかった。吐き気もおさまっていた。

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