「南京錠」におそわれた!

 外を歩いていると、電信柱に南京錠がかかっていた。

 こんなところに南京錠がかかってるだなんて、将来大物俳優になろうとしているのだろうか?もっと目立つ必要があるではないか?

 そんなことを考えていると、南京錠がこちらを向いてニヤリと笑った気がした。まあ、気のせいだろう。しかし、まったく気のせいではなかった。直ちに南京錠は開かれ、その開いた部分の先端が私の頭に差し込まれた。


「あああっ!私はだれ?私の前世は何?私がやろうとしてることは何?私はトムくん?私は生野菜を食べる?私はなぜ生きている?私はブタ肉とキムチが好きなのだろうか?私は回転したか?私は明日、郵便局に行くべきだろうか?それともキャベツを隣のおじさんの家に届けに行くべきだろうか?私は息を吸いたいのか?私は動物園に行きたいのか?私はフラミンゴと酒を飲む約束をすべきか?私は明後日何を考えたら良いのか?私は今日と昨日とで違う私なのか?私は竹やぶに入って太陽と戦いたいのか?私はATMとダンスをするべきか?私は電車になりたいのか?私は機転が効く80歳になれるか?私はスカーフを巻いて煙突をはい上がるべきか?それともスカートを履いて屈託すべきか?私はよく泣いていたのか?泣きべそをかいてもなおまだ私は油を川に流し続けなければならないのか?私は醤油を絵の具の代わりに使えるか確かめるために青色の透明水彩絵の具をケチャップとしてオムライスにかけなければならないのか?私は常に子どもだちの安全を守るために信号機として生まれ変わるべきか?私は地球儀をもってボンジュールという語が何か考えなければならないのか?私は何食わぬ顔で電波望遠鏡の上に立ってソーラーパネル設置運動を反対せねばならないのか?私は六芒星を新幹線の上に貼り付けて知恵をばらまくべきなのか?私は家にバスケットボールのゴールを置いてストーカー撲滅運動をすべきか?私は胃薬が大好きになるように目薬を錬金術に使うべきか?私は…」


 次々と生きることを強制されている気がした。死にたい。

 私は南京錠を破壊しようとした。しかし、南京錠は巨大化し、南京錠の閉じる穴の部分に私は押し込まれてしまった。


 もう遅かった。私は鉄パイプの監獄に閉じ込められていた。私はすべての問いを剥奪されていた。監獄の扉には南京錠がかかっていた。

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