第162話 事件

かなり前の話になるのだが、住んでいる地区の中で事件が起こった。

何が起きていたのか、その事件が起こった時は知らなかった。


かなり経ってからニュースになった。

街の方から出張してきたマスコミの人間が田舎道にずらっと路上駐車して、地区の中の人間を見つけるとハイエナのように群がってきていた。

買い物に車で出て、のん気に帰ってきて、車を停めようとすると物陰から5~6人の人間が飛び出してきて、ぞっとした。待ち構えていたんだね。

走ってきて囲まれた。


なにがあったのか全く知らなかったし、教えてもらっても私からマスコミへ出せるような情報は何一つない。

なんとか丁寧にそう言って断ったが、あからさまにぶすっとされたのが記憶に残っている。

口調も全く関係者でもないのに責めるような感じで、どこから言ってくるのかなあとその時も少し腹が立ったと思う。


家の中に入ってからも、わざわざ玄関のチャイムを鳴らして、取材に応じるように言ってきたマスコミ人もいた。

知らないものは知らない。隠している訳でもなくて知らないんですよと答えて帰ってもらった。なんかこちらが応じる義務があるとでも思ってるのかな。うちはうちで関係ないことを言われずに静かに暮らす権利があると思うが。


マスコミとしては、「田舎の無関心が引き起こした事件」のような誘導がしたいようだった。

そんなことを言われても、無関心といってもらっても地区外の知らない人が知らないうちに起こした事件で、地区の人に何も責任なんてないという。


自分たちが納得できる筋書きを作って、それに沿った情報やコメントが欲しかったのだろう。

なんでもこうやって捻じ曲げていくんだなあと思った。


偉そうに言ってくるくせに、乗ってきた車全部路上駐車だし、迷惑だし。

タクシーで来たからかタクシーを待機させっぱなしというのもあったな。


被災地なんかで交通の妨げになる場所に当たり前のように路上駐車して、数少ない食料を買えるコンビニなんかの食糧を買い占めて取材をしているという話も聞くが、どこも「なによりも俺様たちが優先されるべき」というマスコミマインドなんだなあと改めて感じた。


刑事さんたちの方が紳士的だったよ。

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