第163話 今も昔も
私の夫は晴れた日はバイクで通勤している。
スーツを着て革靴の日はさすがに車で送ろうかと言ったが、さっさとヘルメットを被って出かけていった。
好きだから仕方ないかな。
田舎で職場が近いことから、バイクの音で帰ってくることはわかる。
子どもたちが小さい頃も夫はバイクに乗っていて、夕方私がご飯を作っていたら
「お母さん、お父さんが帰ってくるよ」と教えてくれていた。
車と違って特徴的な音だからわかるようだ。
まあ、車でも家の前にとまる時にはわかる。
バイクの音が近づいてきて、そろそろ帰ってくるなと思っていたら、音が遠ざかっていった。
聞き間違えはないから、給油でもしにいったのかと思って待つ。
なかなか帰ってこないのを心配していると、帰ってきた。
「気持ちいい天気だから、ちょっとだけ流してきた」
バイク通勤では物足りなかったらしい。
景色のいい道路を少し走って帰ってきたそうな。
私や子どもがバイクに乗りたての時に自主練習として走っていた道。
「ちょっとだけだけど気持ち良かったよー」とニコニコ。
昔だったら、子どもが泣いていたところだよ、まっすぐ帰ってこないと。
「なんでまっすぐお父さん帰ってこなかったの?」って。
あまり車やバイクが走らない田舎だから、自分のうちの車やバイクの音は幼い子どももしっかりわかっていて誤魔化しようがなくて。
今は大きくなった子どもが帰省してきて、
「いい音してる。なんか悔しい。」と言う。
父と子で同じバイクに乗っているが、父である夫はマフラーを替えた。
「そんなに音は変わらないよ」と夫はとぼけるが、子の耳は騙せなかった。
他の音にかき消されることなくダイレクトに聞こえてくるから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます