第128話 シフォンケーキ

今でこそいろいろなお店で食べることができるシフォンケーキだが、私は大学生になるまでその存在をしらなかった。

実家から川を挟んだ場所にシフォンケーキで有名なお店があって、大きな白いお皿の真ん中にふわっふわの大きめのシフォンケーキが横たわり、その脇にホイップしたクリームが添えられていた。

大学から帰省すると、友達が毎回そこへ連れていってくれた。


その頃はスフレケーキも地方都市のベッドタウンには売られていなくて、最も柔らかなケーキが普通のスポンジ生地だったので、シフォンケーキを初めて口にした時の衝撃はすごかった。

甘くどくなく、お腹にたまることもない。

嬉しくて、そのお店に行ったら毎回シフォンケーキのセットにしたくらい。


大学卒業後わりとすぐに結婚した私は、周りにケーキ屋さんがないことに驚いた。

あるにはあるのだが、峠を二つこえた市街地。

車の免許のない私は気軽に買えない。

そうなると自分で作るしか道はない。


それから夫にシフォンケーキが焼ける高さのあるオーブンレンジを買ってもらった。

そして、狂ったように焼いた。

その時は卵6個をケーキ台1つに使うレシピで焼いていたので、卵の消費量も異常だった。


夫も子どもも文句も言わず、美味しそうに食べてくれたなあ。

今も思い出したようにたまには焼いているが、あの時の憑りつかれた感じはなくて、

「食べますか」「焼きますか」という静かな気持ちで焼いている。


子どもたちが高校時代も、気の向いた時にケーキを焼いて、お弁当のデザートとして持たせていたから、かなりのケーキを私は焼いたのではないかと思う。

ケーキ屋さんほどではもちろんないが、普通の母親としては相当な数だと。


シフォンケーキはホイップしたクリームを添えて食べるのが一番美味しいと思っているが、そのまま何もつけずに食べるのもありなので、ちょっとした甘いパンがわりにと、子どもたちの部活の試合などではお弁当のおまけとして多めに持たせていた。


ちょっと甘くて、でもお腹が重くなり過ぎない。

オススメのおやつだ。


今は買えるお店も見つかったが、「ちょっと値がはるなあ」と感じて、ちまちまと自宅で焼いている。

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